(260)「特定技能」に関する統計から見る農業【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年12月3日
法律の文言の意味を正確に理解するのは大変です。「特定技能」と「特定産業分野」という一見、誰にでもわかるような言葉にも、実はその意味が細かく規定されています。
日本における外国人労働者の「在留資格」は、馴染みの無い人にはなかなかわかりにくい。よく聞かれる「外国人技能実習制度」は、基本的に日本の技術を海外へ移転するために学んでもらうためのものである。
これに対し、「特定技能」とは外国人労働者として日本で働くための正式な「在留資格」である。この制度が出来た背景には、わが国の高齢化と人口減少などにより、分野により労働力確保が難しくなってきたことがある。
「特定技能」の対象となる「特定産業分野」は、現在のところ、14分野(介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・船用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)である。
これを見るとわかるように、かつても今も日本を支えている多くの産業が含まれているし、農業、漁業、飲食品製造業、外食業、という「食」関連分野に注意したい。
「特定産業分野」における「特定技能」には1号と2号がある。1号は、「相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する」外国人向けの在留資格であり、雇用者は職業上および日常生活での「支援計画」の策定が求められる。その内容は入国前後の情報提供や生活支援、日本語学習支援などがある。詳細と2号(熟練した技能を要する業務に従事する)はここでは割愛する。
このコラムで注目したいのは、出入国管理庁が2021年9月末現在の速報値として公表した「特定技能1号在留外国人数」の内訳である<注1>。
総数は38,337人、国籍別に見ると、ベトナムが23,972人(63%)を占めている。次いで、フィリピン3,591人(9%)、中国3,194人(8%)、インドネシア3,061人(8%)となり、これら4か国で33,818人と全体の88%を占めていることがわかる。
ところで、これを先の特定14分野の内訳で見るとどうなるか。最大分野は飲食品製造業の13,826人(36%)であり、次いで農業5,040人(13%)、外食業1,749人(5%)となっている。
また、都道府県別に見ると、愛知県が3,314人と最大であり、以下、千葉県(2,607人)、茨城県(2,158人)、埼玉県(2,305人)、と続く。大阪は1,999人である。このあたりまでは、何となく想像通りだが、5,040人の農業の内訳はどうだろうか。
第1位は、茨城県(744人)であり、これは第2位の北海道(675人)を上回る。第3位は熊本県の400人が千葉県の397人をわずかに上回る。農業分野をさらに分けると耕種農業全般が3,831人で、畜産農業全般が1,209人である。ここで掲げた地域にお住まいの方の体感はいかがだろうか。
さて、先にこれは「特定技能」という正式な「在留資格」であると記した。先日、都道府県の知名度ランキングなるものを見たが、つねに上位は北海道や京都府、沖縄県などであまり動かない。また、茨城県はようやく最下位脱出などと弄(いじ)られていたが、海外から見た魅力、とくに農業分野で「特定技能」を持つ外国人労働者が全国一という点は、日本農業が直面している現状を踏まえれば、それだけ受け入れ態勢を備えているということでもある。このあたりはもう少し評価しても良いのではないか。
ちなみに、漁業分野の「特定技能」による在留資格を持つ外国人は478名だが、内訳の第1位は広島県の89人である。飲食料品製造業分野の1万3,826人のうち、第1位は千葉県の1,284人であり、埼玉県1,135人が続く。残りの道府県は全て1,000人に満たない。
* *
これは2019年4月以降のまだ新しい制度です。ただし、技能評価の詳細内容をよく見るとわかるようにかなり細かく内容や要件が規定されています。日本農業を見る場合でも、国内から見る視点と海外から見る視点の違いはこうしたところにも表れているということなのかもしれません。
<注1> 出典:出入国管理庁、「特定技能1在留外国人数(令和3年9月末現在)概要版」、2021年。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(130)-改正食料・農業・農村基本法(16)-2025年2月22日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(47)【防除学習帖】第286回2025年2月22日
-
農薬の正しい使い方(20)【今さら聞けない営農情報】第286回2025年2月22日
-
全76レシピ『JA全農さんと考えた 地味弁』宝島社から25日発売2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年2月21日
-
農林中金 新理事長に北林氏 4月1日新体制2025年2月21日
-
大分いちご果実品評会・即売会開催 大分県いちご販売強化対策協議会2025年2月21日
-
大分県内の大型量販店で「甘太くんロードショー」開催 JAおおいた2025年2月21日
-
JAいわて平泉産「いちごフェア」を開催 みのるダイニング2025年2月21日
-
JA新いわて産「寒じめほうれんそう」予約受付中 JAタウン「いわて純情セレクト」2025年2月21日
-
「あきたフレッシュ大使」募集中! あきた園芸戦略対策協議会2025年2月21日
-
「eat AKITA プロジェクト」キックオフイベントを開催 JA全農あきた2025年2月21日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付、6月26日付)2025年2月21日
-
農業の構造改革に貢献できる組織に 江藤農相が農中に期待2025年2月21日
-
米の過去最高値 目詰まりの証左 米自体は間違いなくある 江藤農相2025年2月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】有明海漁業の危機~既存漁家の排除ありき2025年2月21日
-
村・町に続く中小都市そして大都市の過疎(?)化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第329回2025年2月21日
-
(423)訪日外国人の行動とコメ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年2月21日
-
【次期酪肉近論議】畜産部会、飼料自給へ 課題噴出戸数減で経営安定対策も不十分2025年2月21日
-
「消えた米21万トン」どこに フリマへの出品も物議 備蓄米放出で米価は2025年2月21日