生乳過剰と40年前「雪印受乳削減」事件【記者 透視眼】2021年12月14日
日に日に危機感が高まる年末年始の生乳過剰処理。先週末11日、ついに19時のNHK全国ニュースでもトピックで取り上げた。喫緊の需給問題を取材しながら、酪農乳業界の歴史に刻む40年前の「雪印受乳削減」事件を思い起こした。(敬称略)
「年末年始に生乳大量廃棄も」と報じる12月11日19時のNHKニュースから
■NHKニュースでも特集
11日19時のNHKニュースで、年末年始に生乳廃棄が出かねないと乳製品過剰が特集で取り上げられた。この時間帯は極めて視聴率が高い。つまり、業界や国会、自民党内の議論にとどまらず、全国津々浦々の消費者、国民が知ることになったことを意味する。
SNSをはじめ、反応がどう出るかは13日の週明けからだ。特に小中学校が冬季休みに入り学校給食牛乳が供給停止となるクリスマスイブの24日前後まで時間がない。
番組は、以前のバター不足で指定生乳生産者団体など酪農制度の問題点ばかり指摘したケースに比べ、客観的、多角的に課題と現状を取り上げていた。北海道や長野の産地実態、行政やJA全農酪農部などの「牛乳をもっと飲んで」との訴えなどにも時間を割いた。テレビ放映を通じ酪農家の窮状に理解を示し、消費者があと一杯でも多く牛乳を飲めば、生乳需給は少しでも改善へと進むはずだ。
■「入り口」「出口」両方で需給改善
酪農乳業界挙げての生乳需給改善の動きは、さまざま出ている。
これまでは主に「出口」対策で、生産したものいかに販売し消費していくかに力点を置いてきた。
乳製品過剰が記録的に積み上がる中で、生産現場で酪農家に生乳出荷をこれまでよりもやや抑制を求める「入り口」対策にも踏み切っている。だが、乳牛の体調を崩してまで生産抑制をしては、今後の生産にも響くため酪農家は慎重な対応を取っている。配合飼料高、燃油高などコスト要因もあり所得維持にはある程度の生産量確保との思いも強いのが実態だ。11月のホクレンの受託乳量が11月中旬段階で前年同期比4%台の伸びを示しているのもその表われだろう。
一方で乳業メーカー工場の生乳加工の現場は、物理的に受け入れ態勢が限界に達している。このまま牛乳需要伸び悩みの一方で、生乳生産が推移すると、処理できず廃棄せざるを得ない最悪の事態が現実となりつつある。
■「今は昔」40年前の雪印事件
年末年始の生乳廃棄危機を前に、「今は昔、竹取の翁というものありけり」という日本最古の物語作品「竹取物語」の書き出しが浮かぶ。
「今は昔」、つまりは当時を振り返り「今となっては、もう昔の話になってしまったが」という意味合いを持つ。その〈昔〉とは約40年前、1980年6月に発生した当時の乳業最大手・雪印による指定団体・ホクレンへの約15万トンもの一方的な生乳取引量削減を指す。業界で今も語り継がれる「雪印受乳削減事件」だ。
ホクレンは認めず係争になる。雪印は大量の乳製品在庫を抱え、前年の98万トンから一挙に15万トン減らすと通告した。しかも酪農不足払い制度の加工原料乳限度数量枠内である。「不足払いへの乳業の反乱」とも称された。結局、北海道が調停に入り、両者の言い分を踏まえ折衷案のような形でどうにか決着した。駆け出しの記者だったが、北海道を舞台にした全国ネタの大きな経済事件に出くわし、関連取材に日々邁進したのを思い出す。
■系統vs商系乳業
雪印創業者で「北海道酪農の父」伝説の人物・黒澤酉蔵に取材したのも同じ頃。生前の黒澤に会った最後の記者ともなった。それから長い歳月が経ち、もう同社内で同事件を経験した社員はいない。現雪印メグミルク社長の西尾啓治は、その翌年、81年の入社だ。
その後、ホクレンは系統乳業資本・北海道農協乳業(現よつ葉乳業)に配乳を傾斜していく。一方で雪印は経済合理主義の論理で道内工場の統廃合を次々と進める。系統vs大手商系乳業の対立は頂点に達した。
■今は酪農・乳業一体論
それから40年あまり。今の状況はコロナ禍で苦しい生乳需給実態だが、当時とは様変わりし対立から協調へ生産者団体とメーカーの関係も様変わりした。
Jミルク会長で明治HD社長の川村和夫は「酪農乳業一体論」を強調する。酪農と乳業は運命共同体、同じ船の上にいる乗員という意味だ。今の難局乗り切りには業界一体の対応しかない。NHK報道も突破口になり、消費者理解が進み牛乳消費拡大が広がるのか。年末まで時間はわずかしかない。
(K)
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