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誰が為にカネはある【小松泰信・地方の眼力】2021年12月15日

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岸田文雄首相は14日の衆院予算委員会で、18歳以下の子どもへの計10万円相当給付を巡る政府指針について、(1)現金10万円を一括給付(2)現金5万円を2回給付(3)現金5万円、クーポン5万円分を2回に分けて給付、の3パターンの給付方法を自治体に示す方針などを固めた。

10万円給付についての各紙社説を読み解く。

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自治体の声を聞き、支援せよ

高知新聞(12月15日付)は、「自治体に施策の自由度が高まることは歓迎される」としたうえで、「政府の方針がこれほど定まらなければ自治体に戸惑いが広がるばかりだ。(中略)制度設計をより良いものにすると強弁しても、そのままには受け入れがたい。当初の設計と自治体との対話が不十分だったことが混乱を招いたことを認識する必要がある」とする。

「来夏には参院選が行われる。クーポンを押し通して自治体などに反発を残すより、批判を受けても変更した方が傷は浅いという見方もあるようだ」とチクリと一刺しし、「コロナ禍で傷んだ暮らしや経済を立て直す必要がある。子育て支援や経済浮揚への持続的な対策を国会でしっかり論じたい」と願いを込める。

南日本新聞(12月15日付)は、岸田首相が「さまざまな声を受け止め、より良い制度設計を行う」と強調したことを取り上げ、「『聞く力』をアピールするのはいいが、当初の計画が議論を詰めず生煮えだったのは否めない」とし、「二転三転する政府の対応に、実務を担う自治体は振り回されている。自治体の意見や要望を聴き、給付の在り方を抜本的に見直すべきだ」とする。

大阪府岬町や秋田県横手市が「不平等との声もある。新型コロナの影響で子育て世代は年収にかかわらず厳しい」として所得制限を撤廃する方針を決めたことを紹介し、「独自の財源で手当てできない自治体には国の支援が欠かせない」と訴える。

欠如した生活者視点

「そもそも選挙目当ての『ばらまき』の色彩が強く、制度設計の危うさが指摘されていた事業である。実施を目前にした今回の混乱は政府、与党が自ら招いた失態と受け止めるべきだ」と、厳しい筆致で始まるのは西日本新聞(12月14日付)。

「認識が甘過ぎたと言わざるを得ない。新型コロナ対応に追われる自治体の負担増や事務経費の膨張は事前に予想できたはずである。子育て支援策と消費喚起策を結び付けることにも違和感が拭えない。子育ては一過性の営みではない。大学卒業までにかかる支出に備えて少しでも蓄えを増やしておきたいとの考えが、子どもが幼い家庭の中にあったとしても、自然なことではないか」と畳みかけ、「総額2兆円近くに上る事業のなし崩し的な実施は許されない。予算成立前に事業の目的と見直しの理由を国会で真摯(しんし)に説明し、混乱の責任も認めるべきだ。そうでなければ、肝心の国民の理解も得られまい」と追及の筆は止まらない。

「迷走の背景には生活者視点の欠如があるのではないか」として、首相に猛省を促すのは東京新聞(12月14日付)。

「クーポンについて『市民は望んでいない』『現金の方が効果が高い』との声も聞かれる。現金と違い地域や使途を絞られるためだ」として、「各世帯にはそれぞれ経済的事情があり、使途を細かく制御すること自体に無理があるのではないか」と疑問を呈す。「コロナ禍における経済対策で最も重要なことは、真に助けを求めている人々に素早く公平に支援が行き届くことだ。そのことはコロナ禍以降、次々と対策を実施する中で学んできたはずだ。給付の制度設計に欠けていた『暮らしを助ける』という視点をいま一度確認する必要がある」と提言する。

カネならある

人びとの暮らしが脅かされ続けている沖縄の二紙の指摘は重い。

琉球新報(12月14日付)は、「自治体の判断で地域の実情に応じて10万円の現金給付を選択肢の一つに加える」ことを「合理的な選択」としたうえで、「本来なら教育無償化を含む教育費の増額を実現すべきだ」と重要な論点で迫る。

全国で、クーポン分の現金給付を望む声が相次いでいるが、沖縄県においても同様の動きがある。

石垣市長は「離島ゆえに高校卒業後、ほとんどの子どもが島外へ出る地域実情があり、転居費用など他地域より子どもにお金がかかる」という理由から、現金で給付することを発表した。南城市長、豊見城市長、八重瀬町長が全額現金が望ましいとの考えを示していることも伝えている。

さらに、「経済協力開発機構(OECD)によると、2018年の国内総生産(GDP)に占める、小学校から大学に相当する教育機関への公的支出の割合は、日本が前年より0.1ポイント減の2.8%で、比較可能な37カ国のうちアイルランドとともに最低だった。最高だったノルウェー(6.4%)の半分以下だ。加盟国平均は4.1%。少なくとも加盟国の平均の水準に達するよう、教育予算を増額すべきだ」と訴える。

課題となる財源については、「22年度から5年間の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は、現行より約100億円増の1年当たり2100億円超にする。防衛省は22年度予算の概算要求を過去最大規模の5兆4797億円としている。県民の多くが反対する辺野古新基地建設にかかる費用は、県の試算で2兆5500億円」であることから、「膨らみ続ける防衛費を教育費に回し誰もが高等教育を受けられるよう教育無償化を進めるべきだ」と冷静に提言し、「子どもは教育を受ける権利があり、教育環境を整えるのは国の義務だ」とは、お見事。

沖縄タイムス(12月9日付)は、「受け取る側からすれば、必要な支出に柔軟に対応できるのは、やはり現金である」ともっともな心情を語り、「子どもの貧困率は、ひとり親世帯では約半数に達している。さらに母子世帯の4割近くは貯蓄がない。コロナ禍で厳しさが増しているからこそ、現金による直接的支援が果たす役割は大きい」とする。

「政府は制度設計が不十分だったことを反省した上で、住民の声に寄り添う自治体の積極的な対応を後押しすべきだ」と強調し、「現場をよく知る自治体との連携を密」にして、「重要なのは必要な人へ、必要な支援を、速やかに届けることだ」と訴える。 

生活困窮者への「思いやり予算」はないのか

2021年の世相を1字で表す「今年の漢字」は「金」。「キン」と読むそうだが、冗談じゃない。「カネ」と読め。

今朝(15日)の「NHKおはよう日本」は、東京のNPOによる「炊き出し」を紹介し、食事に事欠く人の急増を報じた。「炊き出しに並ぶ人が増え続ける中、民間の団体で対応するのはもはや限界に来ている」とは、NPOの関係者。

民間の善意に頼り、「限界」までやらせた政治の不作為は許せない。「思いやり予算」は、生活困窮者のために使うべし。

「地方の眼力」なめんなよ


本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

小松泰信氏のコラム【地方の眼力】

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