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続・変わらない農村女性【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第176回2021年12月16日

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長い間差別・抑圧されてきた女性は戦後の民主化で参政権を得る等、法的政治的にその地位を大きく向上させた。その男女平等を実態がともなったものとすべく、また社会的経済的な地位向上を図るべくさまざまな施策が展開され、農村部では生活改良普及事業の展開(註2)などで農村女性の地位向上を図ろうとした。
一方、田畑と台所に縛り付けられていた女性の解放は大きく前進した。農業労働は、機械化・化学化の進展、自給生産の衰退等で、田植えと稲刈りを除くと本当に楽になった。家事労働も電化・機械化・化学化の進展などで省力化した。このように生産や生活の様式が高度経済成長のなかで大きく変わり、女性に時間的ゆとりが出てきた。

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にもかかわらず、60年代の農家の女性の地位はまだ変わっていなかった。たとえば自由に外出できなかった。

農協婦人部や生活改善クラブの集まりがあっても嫁さんは舅(しゅうと)姑(しゅうとめ)の目や主人のいやがることが気になってなかなか出席できなかった。「行っていいか」などと口に出すこともできなかった。そもそも嫁は意志をもたないもの、もってはならないものであり、こうしたいと言うこと自体意志をもっていることを示したことになるので、言うわけにもいかなかったのである。

もちろん姑は自分が嫁の時代に抑えつけてきた自分の舅姑がいなくなっているか、力をもたなくなっているかなので相対的に自由に出かける。それで農協婦人部などは姑の集まり、嫁の悪口を言い合う場となっていた。こんな集まりには、たとえ行ってよいと言われても、嫁は出る気がしない。

しかも姑たちは一度握った婦人部などの役職はしがみついて絶対に手放さない。10年経っても20年たっても、60歳、70歳になっても、若い人たちに譲ろうとはしない。地位にしがみつくというのは男にももちろんあるが、女にもある、というより女の方が強いようである。外に開かれた口は、女性に許された名誉職は、それくらいしかないからである。それが唯一の生きがいになっているのに、やめたらなどと辞退勧告などしたら大変なことで、何を言われ、何をされるかわからない。波風をたてないようにするには、黙っていた方がいい。そこでいつまでも年寄りや大先輩がとりしきることになる。これでは当然若い嫁さん方は発言しにくいし、意向も反映されない。これではおもしろくない。そこで出席が承諾されている家の嫁さんも会合には出たがらないことになる。これがまた若い嫁さん方をうちに閉じこめることになる。

それなら町にでも遊びに出れば良いではないか、と言われても金はない。小遣いももらえないからだ。嫁ばかりではなく息子も自由な金をもたないただ働きの労働者だった。それでもたまに外に出たりすれば近所の年寄りがあそこの嫁は遊んでばかりいる、姑が畑で真っ黒になって働いているのに隣の嫁は化粧をしてよそにでかけたなどと悪口を言う。

もちろん部落の寄り合いなどには出られない。ここは家の主人=男の出るところ、女は家の代表者ではないからだ。

よく開かれる稲作講習会や税申告の研修会などにも嫁はもちろん姑もでられない。女性は技術者・経営者ではなく、男の言うことを黙って聞いてその通りに働く労働者でしかなかったのである。

指導者と言われる人たちの側もこうした状況にとくに疑問をもたなかった。

ある県の生活改良普及員の女性の方々と会議でいっしょになったときのことである、

彼女らが「経営主」という言葉をよく使う。注意して聞いていると、それは農家のご婦人の旦那さんのことを指している。そこで発言した。

何で旦那を経営主と呼ぶのか、おかしいではないか。奥さんが経営主である場合もあっていいのに、経営主はイコール男性だと考えるのは問題ではないか。生活改良普及員たるものが、女性の地位向上の先導者自らが、経営主は男性だということを前提にして指導するから農村の女性の地位は低く、農業が悪くなるんだ。

こんな皮肉をいったことがあるが、こうした状況が普通だった。これは何もこの県だけの問題ではなかった。

農村の女性はまだ家の中に閉じ込められていた。さらに地域の監視を受けていたのである(次回に続く)。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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