今年の漢字「金」と農政重大ニュース【記者 透視眼】2021年12月21日
今年の漢字は「金」。同じ〈きん〉と読む「菌」「緊」が浮かんでしまう年の瀬である。重大ニュースは枚挙にいとまがない。気候変動、米中対立激化、総選挙、コロナ禍で深刻化する「コメと生乳」過剰、令和初のJA全国大会など、課題山積の1年となった。
■〈きん〉は「金」か「菌」か「緊」か
京都・清水寺の今年の漢字は東京五輪のメダルラッシュとなった日本選手奮闘や二刀流・大谷翔平選手の活躍などから「金」の字となった。
「なるほど」と納得する半面、まだまだ油断できない新型コロナウイルスや相次ぐ畜産伝染病などから「菌」の字も思う。また米中対立はさらに激化し、総選挙を前に与野党対立は頂点に達し内外の政治、経済、社会情勢は緊迫する。その一字、「緊」も浮かぶ。
■歴史転換の〈辛丑〉繰り返す
今年の干支は〈かのとうし〉と読む「辛丑」。「辛」は痛みを伴う幕引きを、「丑」は殻を破ろうとする生命の息吹を意味するという。
〈辛丑〉は歴史の転換の年ともなった。60年前はどうだったのか。
米国は若きリーダー・ケネディが希望の星に。日本は池田勇人首相が所得倍増計画を掲げ、3年後にはアジア初の東京五輪もひかえていた。東西対立の中でソ連はベルリンの壁建設へ動く。
そして今年、〈辛丑〉の格言通り、歴史は揺れ動き、格差、分断はとどまらない。民主主義vs独裁国家は米中対立とコインの裏表の関係にある。コロナ禍で「K字経済」と称されるように上下が大きく開く〈K〉の形に企業の業績格差も広がった。
一方で、殻を破り新たな生命の芽吹きは、地球環境問題への取り組みが本格化したことだろう。多くの死傷者を出した先日の米国での巨大ハリケーンをはじめ気候変動の魔手は、世界各地で猛威を振るう。
■記者の見た2021年重大ニュース
こうした中で、10に絞り記者の見た今年の重大ニュースをまとめてみた。
まずはコロナ禍。ワクチン接種が進み収束しつつある一方で感染力の高い変異株拡大などコロナの影響はまだまだ続く。
さらには米中2大国の対立激化とその余波。こうした中でも、世界は気候変動対策と環境政策重視が問われる。農業・食品の文脈で考えれば国連食料システムサミット(FSS)やこれを踏まえた農水省の「みどりの食料供給システム戦略」(みどり戦略)なども動き出した。輸出は農政の柱の一つ、農林水産物・食品輸出が初の1兆円台に乗った。だが、農業者の所得増とは結び付いていないのが課題だ。
国内外の政治は中国など強権国家と民主主義に二分され、日本では4年ぶり総選挙区で自公政権の基盤は一段と固まった。
1コロナ禍 深刻なコメ、生乳過剰
2気候変動と環境重視
3国連FSSと「みどり戦略」
4米中対立さらに激化
5東京五輪と被災地支援
6メガFTA・RCEP合意
7岸田政権と総選挙
8令和初第29回JA全国大会
9全農半世紀と農中100年
10農林水産物・食品輸出初の1兆円台
■コメ需要初の700万トン割れ
コメ過剰に伴う米価下落を受け、政府は市場隔離的な効果を狙い2020年産米在庫のうち15万トンの「特別枠」を設定した。ただ、特別枠は本来の市場隔離とは違い一定期間を過ぎ保管後は主食用米の市場に出回るため、米価下落対策としての効果を疑問視する指摘も多い。
コメ問題で一番の課題は年間10万トンベースと、他作目にはない大きな需要減が止まらないことだ。需給を合わせようと産地側は主食用米の生産を抑制するが、いずれ対応には限界が来る。まずは、来年の作況がどうなるのか。もし、豊作に振れれば、コメ政策は深刻な事態を迎える。
農水省は22年産主食用米の適正生産量を675万トンと示した。前年産より面積換算で約3%減らす必要がある。21年産の作況指数108と大豊作を記録した全国一の産地・北海道はさらに「深掘り」が迫られている。
生産面の議論ばかりが目立つが、需給のもう一方も側面、需要・消費の見通しはさらに暗い。農水省は主食用米需要量を692万トンと試算した。〈700万トン割れ〉は戦後日本の農政で史上初めてだ。需要喚起に官民の総力を挙げないと、稲作農家の先行きは見通しが立たなくなる。
■前代未聞の年末生乳廃棄の恐れ
12月に入り、NHK19時の全国ニュースをはじめ、全国ニュースとなっているのが年末年始の生乳廃棄懸念だ。コロナ禍で乳製品在庫が積み上がる一方で、肝心の牛乳の家庭内需要が伸び悩み、生乳需給ギャップが一挙に深刻化した。
実際に、乳業工場の処理が間に合わず生乳廃棄の事態となれば、前代未聞の出来事となる。国、関係者挙げ消費拡大、生産現場での一時的な生乳出荷抑制などを呼び掛けている。ただ、コメ過剰と全く性格が異なるのは、牛乳・乳製品の需要減がコロナ禍の外食需要落ち込みが主因の一時的な現象とみられていることだ。「コメと牛乳」は同じ700万トンを〈境〉に、コメが初の700万トン割れとなる一方で、生乳は2030年に780万トン需要へ傾向的には増産基調となる。「コメと牛乳」の〈格差〉はさらに広がる。
■気候変動と「みどり戦略」
気候変動対策は国際的にも待ったなしの課題となる。農政の柱も環境重視、有機農業振興へ徐々にシフトせざるを得ない。
今年の農政課題でも、9月の国連FSSも受け「みどり戦略」推進が問われ、22年は法制化も予定されている。ただ、実際の「みどり戦略」実践には、これまでの農法転換も含み、農業者に大きな負荷がかかる。政策支援を含め産地単位での実践が求められる。
■野党失速と迫る7月参院選
今後の農政に大きな影響を及ぼす4年ぶり「政権選択」の総選挙が10月末あり、自公政権が安定多数となった。発足直後に解散・総選挙を打った岸田首相は、自民党単独で「絶対安定多数」を得て政権基盤を強固にした。
当コラム「記者 透視眼」でも、衆院選注目の数字を二つ挙げた。〈233と261〉。もう一つは〈210と140〉。
先の数字は過半数と絶対安定多数。自民は議席を減らしたものの、当初予想から一転し小選挙区で地力を見せ絶対安定多数も確保、実質勝利という内容だ。まともに逆風を受けたのが野党第1党、立憲民主党だ。先の〈210と140〉は立民絡みの数字。野党4党共闘の選挙区210余。次期衆院選の政権を目指す足がかりとして1990年土井社会党ブームで獲得した136を念頭に〈140〉を挙げた。だが、比例で伸び悩み議席数96と、政権が全く見通せない二ケタ政党に落ち込んだ。
躍進したのは日本維新の会。現有11から41とほぼ4倍の30議席増。自民15、立民14の議席減と合計した数字とほぼ合致する。維新は規制改革、農業でも合理化農政を掲げる。今後の動向に注意が必要だが、国会での発言力は飛躍的に高まっている。政治は結果であり、特に総選挙での勢力図・議席数は何よりも重いのは間違いない。
問題は7カ月後の国政選挙・参院選だ。野党共闘の在り方も当然問われる。執行部を一新した立民が再び惨敗となれば求心力はさらに低下し〈分裂〉の二字も浮上するはずだ。半面、自公政権に厳しい審判が下れば、岸田政権の足元は揺らぎかねない。全ては、年明け1月下旬からの通常国会の論戦にかかる。
■令和JA戦略と全農、農中
10月末、令和初となる第29回JA全国大会で今後のJA戦略を確認した。JA全中が旗を振る目玉の「総点検運動」は人に焦点を当て、地域の担い手を絞り込み産地振興を進めていく。試算基盤弱体化に歯止めがかからない中で、いわば〈背水の陣〉を敷いた。実践はこれからだ。
一方で22年3月に創設50年の節目を迎えるJA全農は、食品産業などとの連携をさらに強め、国産農畜産物の販売強化と地域農業振興に大きな役割を担う。農林中金は存在意義を表わすパーパス経営を前面に出す。2年後の23年12月には創設100年となり、〈次の100年〉へ食と農のリーディングバンクの基盤を確固たるものにしていく。
〈目指す姿〉を整理し直し、事業を展開する上で共通目標として役職員の一体感を持たせた。特に2030年までの持続可能な社会、気候変動、地球環境重視の大胆数値目標を掲げたのが特徴だ。〈持てるすべてを「いのち」に向けて〉組織の共通の合言葉に、〈次の100年〉を見据える。
(K)
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