加工用米でキロ8円の助成金を獲得した生産者組織【熊野孝文・米マーケット情報】2021年12月21日
「もうこれ以上の転作は無理」。県から令和4年産米の転作面積の上積みが示された翌日、千葉県の集荷団体の担当者がため息交じりに感想を述べた。千葉県では4年産で主食用米の作付面積をさらに5000ha減らさなくてはいけないという目標値が示された。転作作物で奨励されているのが飼料用米で、年々飼料用米の作付面積が拡大している。千葉県の生産者組織の中には飼料用米ではなく加工用米に活路を見出すべく、地元自治体に働きかけ、4年産でkg8円(60kg480円)の助成金を獲得した組織がある。
農水省が与党に示した「米政策の推進状況について」と題した資料の中に令和4年度における支援単価と所得のイメージが出ている。主食用米を作った場合と転作作物を作った場合の10a当たりの所得比較を示したものだが、それによると主食用米は11万2000円(3年産相対取引価格9月~10月の平均から算出)であるのに対して飼料用米は標準単収で11万1000円、多収米では14万1000円にもなる。多収米の所得がなぜこれほどまで多くなるかと言うと、第一に単位面積当たりが増えるからである。イメージ図では販売代金は、標準単収で1万6000円であるのに対して多収米では2万1000円の販売代金を見込んでいる。品代とは比較にならないほど所得が大きくなるのが数量払いの助成金で、最高10万5000円が支給されるため飼料用として多収米を作ればこれだけの額になる。
イメージ図には飼料用米以外の加工用米、新市場開拓米(輸出用米)、小麦、大豆の所得も出ている。それによると多収の飼料用米の次に所得が多いのが新市場開拓米で11万8000円、次が加工用米で10万6000円、大豆9万6000円、小麦9万5000円の順になっている。
新市場開拓米の販売代金は加工用米と同じ10a当たり7万1000円と仮置きしてあるのだが、水田リノベーション事業で上乗せされた複数年契約加算1万円等の助成金を加えるとこれだけの所得が見込まれるということで政策的な一押し商品になっている。輸出用米は2年度に面積ベースで5900haが国の認定を受けた。年度と年産が同じになるわけではないが、単純にこの面積に3年産の全国平均収量を乗じると3万1560tになる。今年1年間に輸出される数量は約2万tになる見込みで、それよりも認定数量は1万t多いことになるが、これは新市場開拓米の助成金支給要件の中に年度の縛りが無いためで、簡単に言うと将来輸出する予定であると申請しても認定されるということを意味する。もちろんその間の保管料等は産地もしくは戦略的輸出業者の負担になるが、4年産水田リノベーション事業では10a当たり4万円が支給されるので大きなメリットがあることに間違いはない。
それに比べると加工用米は1万円減額され3万円に引き下げられた。なぜ引き下げたのか農水省の担当部局に聞いてみると「実需者と加工用米の価格交渉の際に引き下げを求められた」といった声や産地から不平等だという声もあったという事から見直したと言うが、もともと産地交付金の半分は産地が自らに産地に最も適した転作作物に手厚く支給できるように設計してあるのだから不平等になるのは承知のことではないのか。こうした声が出るのは、北海道や新潟と言ったコメの大産地が加工用米に手厚い助成措置を講じたことから価格交渉面で優位な立場に立ち圧迫された産地が出たことによる。
冒頭に記した千葉県もその中の一県。千葉県内にある生産者組織は、転作作物に加工用米を選び、加工用米の生産地として順調に拡大して行き、ピーク時には1万6000俵の加工用米を出荷するまでになっていたが、それが価格面で押され5000俵まで落ち込んでしまった。この生産者組織の幹部は、自治体や議会に「飼料用米にキロ20円の助成金を出しているのになぜ加工用米はゼロなのか」とねじ込んで、結果的にキロ8円の助成金を得ることに成功した。kg8円は1俵60kg480円の助成金になる。反10俵穫れるとすると4800円になる。これまで実需者と1俵1万円で価格交渉していても今後はその分安く納入しても生産者手取りは変わらないという計算が成り立つ。
こうしたいきさつを聞くにつれ、飼料用米への巨額の助成金やブランド米につぎ込まれる宣伝費、自治体独自の生産費補てん金など、コメと言う商品はアラジンの魔法のランプかはたまた打ち出の小槌か思えるほどなんとも大変な力を持った作物であるとしか言いようがない。コメはやはり神棚に飾って置く以外にない。
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