(263)「仕事」についての年末雑感【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年12月24日
早いもので今年最後の回となりました。最近、卒業生が何人か尋ねてきてくれたこともあり、少し「仕事」について感じていたことを述べておきたいと思います。
昭和から平成初期の学校教育を受けた世代には、「キャリア教育」と聞くと「???」となる方が多いと思う。文献を遡ると、わが国において「キャリア教育」という言葉が最初に公的に登場したのは1999年のようだ。いわばここが境界である。だが、筆者はその数年前から「キャリア・アップ」などという言葉を良く聞いていたので、実際には1990年代半ばから使われ始めていたのであろう。
この頃から長年続いていた「職業指導」が「キャリア教育」に変更されたのである。そうなると少なくとも約20年、現在の大学生たちは生まれた時から「キャリア教育」なるものの洗礼を受けてきたことになる。
さて、最近、筆者のもとを訪ねてくる卒業生たちの中にも転職や起業を行う者が多い。少し前に「新卒3年離職率」に関する報道を見たが、大卒で1/3、高卒で4割、中卒で6割が新卒3年で離職するという。これだけ聞くと驚くが、大卒に関して言えば、1990年代半ばまでは概ね3割未満、1995年以降は2009年を除き全て3割を超えて同水準である。2009年の離職率が低いのはリーマン・ショック翌年の影響であろう。現実には新卒3年で1/3が退職するのは「キャリア教育」の誕生より前から継続しているようだ。
ところで、15年前に大学教員になった頃、「履歴書」に加え「ES:エントリー・シート」が一般化し、大学教員として現在まで続く仕事の一つが学生の書いたESの志望理由の添削である。これはまだ良い。文章力を向上させる訓練になるからだ。
いまだによくわからないのは、いわゆる「インターンシップ」である。これも米国の制度を形だけ真似て導入したせいか、今でも「半日インターンシップ」「ワンデイ・インターンシップ」などが乱立している。
絶対数として減少している若者を引き付けるため、企業はあの手この手で「持ち上げる」。15年前は(恐らく本音としては)いやいや受け入れていたインターンシップであり、「ただ働き」のようなこともなされていたようだが、今では企業の「良い面をアピールする機会」「選抜への第一段階」として積極的に活用している企業が多い。
だが、それに刺激され、頑張って勝ち抜き就職した先に待っているのは、インターンシップで接した「キラキラ輝いた先輩や職場」ではなく、極めて泥臭く、アナログの職場であったりする。製造業の現場などは恐らく最も事前の宣伝とリアルな作業の毎日の落差が大きいかもしれない。
若者目線では思っていたことと違うのが現実であれば、企業側も少数かつ貴重な若者をかつてのように数が豊富で大量に雇用できた時代と同じ感覚で鍛えていることにまだ無自覚のところが多い。雇用機会が「与えられた仕事しかない」時代であれば、多少の難儀でも必死にくらいつくだろうが、表面上の選択肢が多様な現代では従来型スクリーニングで音を上げ、残るのは高齢者と何としてでも日本に残りたい外国人ということになる。
これは若者の絶対数の減少という雇用環境の変化に加え、大学時代に彼ら彼女らが経験した仕事の疑似体験である「インターンシップ」がいかに彼らを「お客様」扱いして誤解させていたかとのギャップが顕在化した結果であるとも言えよう。
社会人としての本当の「インターンシップ」とは、入社後3年くらいのリアルな生活であると考えた方が適切である。その現実をしっかり伝えた上で、雇用環境の変化に適合した育成方法を考えないとせっかく採用した若者も急速に意欲を失うことになる。
ほぼ3年を過ぎた頃、酸いも甘いも理解した上で、その世界で頑張ろうと思うか、やはり自分は異なる世界に行きたいと考えるかは、これらの結果として出ているに過ぎない。
このようなことを考えていた時、今年、印象に残ったトニー・ロビンソンの『図説「最悪」の仕事の歴史』(The Worst Jobs in History)という本を思い出した。ご関心のある方は年末年始にお読み頂ければ幸いである。比較をしてはいけないが、世の中には、こんな大変な仕事があったのか、と驚くばかりである。
* *
コロナで完全自粛の2020年、変異株は出てきたもののやや回復した2021年、さて2022年はどのような年になるでしょうか。皆様のご多幸を心よりお祈り致します。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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