【浅野純次・読書の楽しみ】第70回2022年1月15日
◎松本創 『地方メディアの逆襲』(ちくま新書、946円)
全国紙あるいはキー局をめぐっては、その報道姿勢あるいは経営的な曲がり角について、批判的あるいは悲観的に語られることが多くなってきました。
それに比べると、地方メディアは結構がんばっているように思えます。本書は地元固有の事件や事態について徹底的に追及していく地方メディアの実情を詳細に追っていて、迫力も説得力も十分なものがあります。
取り上げられているのは秋田魁新報、琉球新報、毎日放送、瀬戸内海放送、京都新聞、東海テレビ放送の6メディアですが、共通しているのはしつこさ、上品に言い換えれば粘り強さです。
全国メディアだと全国区の話題が次々に出てくるので、一つのテーマを数日も報道すれば次のテーマに移っていかざるをえませんが、地方メディアは何ヵ月でも追いかけます。
例えば秋田ならイージスアショア、沖縄では基地問題、京都の京アニ事件。はいつくばうようにしつこく追い続ける中で、記者クラブでのぬるい取材では得られようもない真実が掘り起こされます。
これこそ報道の本来の姿でしょう。そこには住民の目線があります。中央メディアでは得られにくい真実。中央の人にも、また地方の人にも、貴重なヒントがあります。
◎関口宏・保阪正康 『もう一度! 近現代史』(講談社、1760円)
BS‐TBSの同名の番組は派手ではないけれど歴史を学ぶにはとてもいい内容で、楽しみにしている方も多いでしょう。
世界大戦から天皇崩御までの大正年間、昭和恐慌から2・26事件までの昭和初期、波乱の四半世紀を各29のテーマで描いています。昭和史の泰斗とベテラン司会者の紙上対談がテレビ以上に息が合っていて読みやすく感じるのは、編集者のおかげでしょう。
対華21ヵ条要求、ワシントン会議、リットン調査団などの国際的事件から、流行など市井の話題まで多岐にわたるテーマも気楽に読むには好都合です。
大正8年の国際連盟創設で当初、アメリカ、ソ連、ドイツが参加せず、逆に日本は常任理事国だった、などというのは知らない人が案外多いのでは。
本題もさることながら、戦前の吉田茂や鳩山一郎が軍部寄りだったとか、強硬外交の松岡洋右が意外に満州とは友好関係を志向したとか、やや脇道的に、へえ、そうだったのかと思うこと再三なのも著者たちならでは。
◎飯間浩明 『日本語はこわくない』(PHP研究所、1595円)
著者は「三省堂国語辞典」の編集者です。つまり日本語の達人が敬語の苦労、判断に迷う送り仮名、紛らわしい言葉などについてのうんちくを展開していきます。
例えば「ご質問」。「質問に答えていただきたいのですが」などと言うと、切り口上に聞こえるでしょう。でも「ご質問」もなあ、という人は多いはず。そういうときは、「お尋ね」などと和語を使うのがいいのだとか。
お風呂やお知らせはいいが、お教室、お洋服はどうも、など「お」も難しい。「重い」と「重たい」はどう違うか。「到着次第」か「到着し次第」か。「ニホン」か「ニッポン」か。ここまでくると国家的問題になりそうです。
などと考えてくると頭が痛くなり、舌が固まってしまいかねません。でも著者によれば、大抵はどれもが正しくて、人々が使っているうちに「正しく」なって辞書に載るようになるのだとか。日本語は気楽にいこう、怖くなどない、のだそうです。
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