続・1割減反と米どころの対応【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第181回2022年1月27日
いうまでもなく農家はみんな減反などしたくなかった。田んぼに何も作付けしなかったら草がぼうぼう生えるばかり、先祖から大事に大事に維持してきた田んぼを荒らしたくなかった。
でも、ほとんどの農家は口を開かなかった。どうしていいかわからなかったからだ。他の人がやったら、他の集落がやるなら、やるより他ないだろう、ともかくようすをみよう、こういう雰囲気だった。
4月下旬、個人別割り当てが示された。しかし多くの市町村自治体は、自主調整だからと、お願いはするが強制はしないと積極的に推進する姿勢ではなかった。農協はもちろんやれとは言わない。ということで、呑むか呑まないかは個人にまかされる形になった。
そのうちいろんな情報が入ってくる。徐々に不安になってくる。もしも食糧管理制度がなくなって米が自由販売になったら農家はもたない、食管を堅持しなければならない、もちろん減反したからといって食管が守られるという保障はない、しかし1年でも2年でも食管を伸ばしたい、減反奨励金も引き上げられたことだし、やむを得ないのではないだろうか。他の地域では減反協力が進んでいるという、もし協力しなければ目標達成した他の地域から「正直者はバカを見る」と自分たちに非難が集中することになるのではないか。こんなことが隣近所と話題になるなかで徐々にやらざるを得ないような雰囲気になってきた。
こうしてやらざるを得ないと言う農家が一定数出てくると、集落のみんながしたがわないわけにはいかなくなる。そしてみんなで減反するということになった、耕起代掻(か)きすべて終わり、田植え直前だったのだが。
こうして目標は達成された。
隣がやれば自分もやろうという「隣り百姓」的性格(注)、損するときはみんないっしょでという「むら」の平等主義意識、「集落内相互規制」が働いたのである。
それでも農協・農家あげて抵抗して田植えを始めた地域や農家もあった。
それを聞きつけた県は農林課長、農政課長等を先頭に職員を大挙しておしかけさせた。そして何班かに分かれて集落まで出向き、実行組合長、区長等の役付きの農家を集めて説得した。集められない場合にはその農家の田んぼまで行き、苗代だけでもいいから休んでくれと頼んだ。農家は動揺した。普及員や土地改良課職員、役場職員等々の身近な人、お世話になっている人がくるので、むげに断れない。しかも、資金を借りるときなどどれだけ県や町が協力したか、協力しなければ報復措置でそうした低利融資などもこなくなる。農協は米の販売収益が減るのがいやで減反に積極的にならないだけだ、他の町村では減反が進んでいるのにこの地域だけ取り残されていいのかとも言う。そして連日連夜説得にくる。田植えをしている農家のすぐそばまで行ってスピーカーで協力を訴える。県の幹部は町に泊まり込んで深夜まで目標達成状況の報告を受ける。まさに「むらの選挙戦」さながらだったと農家の方は後で笑っていたが。
にもかかわらず田植えしたものは、地域からの孤立、仲間はずれを避けた方がいいのではないかと後に青刈りをして減反に「協力」した。
こうしてようやく目標は達成させられた。
しかし、そこまでやっても目標を完全に達成しなかった地域もあった。
他方で、減反目標を大幅に超過達成した地域もあった。土地基盤整備事業実施地域と新規開田の多かった地域である。それと相殺されて、目標はほぼ達成された。これについては次回語らせていただこう。
(注)jacomコラム、昔の農村・今の世の中、2019年8月22日掲載・第65回・誇るべき「隣り百姓」能力、参照。
https://www.jacom.or.jp/column/2019/08/190822-38920.php
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酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】
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