岸田政権は夏の第26回参院選に勝利できるか?【森田実の政治評論】2022年1月29日
「謙虚であることをわきまえている人は最高のことを企てることができる」(ゲーテ)
岸田首相の低姿勢は本物か
2021年10月の第49回衆院選で岸田自民党が単独過半数を確保して勝利した最大の原因は、安倍晋三・菅義偉両政権の「高姿勢」を改めて「低姿勢」に転換したことにあると私は思っている。岸田首相は、郷里・広島の先輩・池田勇人首相の1960年の方向転換に学び、実行した。
池田は、前内閣の岸信介首相の「高姿勢」を改め「低姿勢」に転換した。この結果、池田は高い支持を得て、高度経済成長政策を実行し、日本経済を立て直した。
池田には非常に優れた参謀がいた。大平正芳である。大平は論理においても知性においても非常に卓越した人物だった。私は、家内の父親が大平と親しい関係にあった縁で、個人的に交流したが、尊敬すべき第一級の人格者だった。
大平は先輩政治家の池田に、前任者の岸信介政治ときっぱりと絶縁し、低姿勢、寛容と忍耐、所得倍増政策、高度成長による日本経済の復興を提言し、池田とともに実行した。大平には日本を「経済、科学、文化」を主軸とする軽武装の平和国家を建設しようとの明確なビジョンがあった。
大平は池田内閣の内閣官房長官に就任した直後に、郷里の先輩の家内の父親を、首相官邸に招いた。私は案内役として随行した。この時、大平は、自らの政治ビジョンを熱く語った。私は大平が卓越した政治家であることを理解した。その後も、大平とは何回も個人的に会った。大平は常に謙虚であった。
池田勇人にも、私は何回か会った。誠実な人物だった。
現首相の岸田文雄を、1960年の池田、大平と同一視するわけにはいかないと思う。
第一に、1960年の池田、大平は、前内閣の岸政権とはきっぱりと訣別して、経済中心の平和主義に大転換した。しかし、今の岸田のバックには、極右思想・高姿勢の安倍晋三がいる。安倍の同調者の麻生太郎もいる。岸田は、前内閣、前々内閣の「高姿勢」とは訣別してはいない。しかも自ら「適基地攻撃」などという危険極まりない軍国主義志向を隠そうとしていない。
1960年の池田・大平は、低姿勢に転換しただけではなかった。「寛容と忍耐」の政治姿勢を貫き、所得倍増政策を実行し、実現した。
岸田は「新しい資本主義」を提唱し、「賃上げ」の必要性を叫んでいるが、企業家と労働組合に向かって要請を繰り返すだけである。岸田とは何がなんでも賃上げを実行するという迫力が感じられないのである。岸田の低姿勢がパフォーマンスに終わったら、国民は岸田を見離すであろう。
岸田の低姿勢が本物かどうか、多くの国民が注目している。「低姿勢」とは「謙虚さ」を意味する。岸田が真に誠実で謙虚な政治家であるか否か―注視していきたい。
問題はインフレと醜聞
個人的な事を記すのは遠慮すべきだが、お許し頂きたい。私は出版社の編集者をやめてフリーの政治評論家に転じたのは、1972年に田中角栄内閣が成立した時だった。最初の本格的政治取材が1974年の第10回参院選だった。田中自民党は第一党の座は守ったが、目標の議席数には届かなかった。この原因は、石油危機による大インフレにあった。一時は大人気を得た田中角栄は参院選後に退陣を余儀なくされた。大インフレは政権党におそろしい結果をもたらす。
この15年後の1989年の第15回参院選で自民党は大敗北を喫した。国政選挙初の与野党逆転となった。時の宇野宗佑首相は直ちに辞職した。自民党敗北の原因は、消費税導入と政権側のスキャンダルにあった。この4年後、自民党政権は倒れた。
さらにこの18年後の2007年の第21回参院選で安倍晋三が率いた自民党は大敗北した。「ねじれ国会」に入り、2年後自民党は衆院選で敗北し下野した。原因は、政権側のスキャンダルと安倍晋三首相の幼稚さにあった。安倍首相は参院選の主スローガンに「戦後レジュームからの脱却」を掲げたが、国民の理解は得られず、「政治は生活」を掲げた民主党に屈した。政治においては空理空論は危険である。
2022年夏の参院選はどうなるか? 私が注目しているのは、第一に「インフレ」である。石油、円安、世界経済の動向に注目しなければならない。2022年夏に大インフレが起こるか否かは不明だが、中程度のインフレになる可能性はある。4月になると多くの企業は、製品と商品の値上げを行う。賃上げが不十分であれば、国民の不満は高まる。これは選挙に影響する。
もう一つ注目すべきは、政権側のスキャンダルである。過去のスキャンダルに新しいスキャンダルが加わると、大変なことになる。何が起こるかわからないのが政治である。油断大敵である。
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