テーマ:物価上昇が進むなか、農業・食料システムの改革に関する議論が進む【ワシントン発 いまアメリカでは・伊澤岳】2022年2月2日
米国労働省が今年1月12日に発表した昨年12月の消費者物価指数は、前年同月比で7.0%の上昇となった。上昇率が7%を超えるのは39年半ぶりとのことである。昨年12月に発表された11月の消費者物価指数も前年同月比で6.8%の上昇を記録し、この時点で既に歴史的水準に達していたのだが、直近の数値はこれをさらに上回る状況となった。物価上昇が起きている範囲は、食品やガソリン、車、住宅など様々な分野に及ぶ。この要因はパンデミックからの景気回復による需要の増加や、港湾の混雑やトラック運転手不足等による供給網の混乱によるものとされ、需要・供給の両面が物価上昇を導くかたちとなっている。
NFUは農業・食品産業の寡占化への対応策に力を入れる
バイデン政権は苦しい立場
昨年8月下旬にアフガニスタンからの米軍撤退をめぐる混乱が生じたことを契機として、この時期以降バイデン政権の支持率が不支持率を下回る状態が続いている。外交問題は比較的選挙への影響が少ないと言われているが、経済問題、特に物価上昇は米国市民の暮らしに直接的に影響を与える問題であり、今年11月に中間選挙を控えるバイデン政権は危機感を募らせている。
現在の米国議会における各党派の勢力は、定数100の上院が民主党系50、共和党50、定数435の下院では民主党が222、共和党が212、欠員1となっており、いずれも民主党が多数派(上院では同数の場合、副大統領が決定票を投じる)を確保しているものの、勢力は拮抗している状況にある。
過去の中間選挙の結果を参照してみると、大統領の支持率が50%を上回っている場合ですら大統領の所属政党が議席数を減らしているケースが圧倒的に多く、ただでさえ支持率が低迷し、議会の勢力が拮抗するバイデン大統領・民主党は、相当苦しい立場に立たされていると言える。
物価上昇をふまえ農業・食品分野にメスが入る
もちろん、バイデン政権もただ手をこまねいているわけではない。先月号で紹介した通り、物価上昇、特に食品価格の上昇に対応するため、1月3日には寡占状態ととなっている米国食肉産業の競争促進策を発表したほか、1月19日には米国下院司法委員会反トラスト(独占禁止)小委員会において「食料供給における経済的集中の影響と対応」と題された公聴会が開催し、食品価格の上昇に歯止めをかけようと取り組みが進められている。
上記のいずれの議論においても政権・与党サイドのスタンスとして共通しているのは、米国の食料供給が一握りの企業によって支配され、その結果、農業者のみならず米国市民までもが不利益を被っているという認識である。
民主党系の農業団体ナショナルファーマーズユニオン(NFU)は、米国の農業・食品供給網において、一握りの支配的な企業が農業・食品供給網を支配し、巨大な市場権力を行使しているとして、公聴会に以下のような意見書を提出している。
・以下にシェアを示す通り、食料供給は各分野大手4社による寡占が進んでいる
・牛肉:85%、豚肉:70%、ブロイラー:54%
・トウモロコシ種子:85%、大豆種子:76%
・除草剤・殺虫剤:84%
・トラクターなど農機具:大手2社で約50%
・食品小売業:65%
・企業の過度な統合が進んだ結果、農業者の選択肢や経営の自律性が失われ交渉力は低下し、人口減少や所得格差の拡大などといった地域社会への悪影響を招いてしまっている
・独占禁止法やその他競争促進のための法制度がきちんと機能せず今日のような極端な経済的集中が生じてしまった
・こうした課題を解決するため、地域の生産、加工、流通、小売りの選択肢を拡大するための投資を増やすこと、食料システムを支える適切な労働力を育成すること、関連の法制度を適切に執行することが必要
今後も当面の間、農業・食品分野における競争力向上に関する議論が続くとみられる。物価上昇が世界的に進むなか、米国ではどのような対応策が打ち出されていくのか、注目しておきたい。
伊澤 岳 (JA全中農政部国際企画課<在ワシントンD.C.>)
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