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基盤整備実施・開田地帯の減反対応【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第182回2022年2月3日

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「通年施工」、専門外のせいか不勉強だったためかわからないが、私は初めて聞く言葉だった。一般に土地基盤整備は作物を栽培する時期を除いて(たとえば水田の場合は晩秋から早春にかけて)なされるのだが、作物を栽培せず、つまり休耕して、一年中通じて基盤整備の工事を行うことを言うのだそうである。

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1970(昭45)年、この通年施工をやって減反目標を達成するように、そうしなければ前年予算の7割しかやらない、農水省から基盤整備施工中の市町村がこう申し渡された。

もしその言うことを聞いて通年施工すると米を全然作付けできない地域や農家が生まれる。だからといって拒否すると昔から待ち望んでいた土地改良がいつまでかかるかわからなくなる。機械化が進むなかでの用排水路の整備、水田客土、大型農道、大型区画整理等を内容とする基盤整備は待ち望まれていたので、それでは困る。いろいろ論議されたが、減反目標達成のために単純休耕するなら減反する面積が増えても通年施行の方がいいということになった。しかも夏工事になるために工事費の自己負担はかなり安くなる。もちろん稲作所得は減反奨励金をもらっても減るが、基盤整備の工事人足に出ればその収入は補える、こういうメリットもある。

そこで水田の基盤整備を通年施工でやることにし、減反目標を超過達成した。こうして基盤整備地域は減反目標達成に大きな役割を果たしたのである。

新規開田地帯も超過達成した。

減反を申し渡された70年ころは、かなりの資金をつぎこんだ60年代開田地での稲作がようやく軌道に乗り始めたころだった。

そこに減反である。そして米価据え置きとくる。いつまで食管が続くのかもわからない。その上条件の悪い開田地域で栽培している品種は一般にまずくて売れないという。減反に反対して買い入れ制限などのペナルティーが政府から課せられたら困ってしまう。うまい米地帯のようにヤミ米業者が買ってくれないからだ。ましてや前年にできた自主流通米制度(生産者が,米をこれまでのように政府に販売せず、政府指定の業者を通じて直接消費者に販売する仕組み)で売りたくとも売れるわけはない。単収もまだ低位・不安定である。これでは一体どこに展望があるだろうか。当時人気のあったササニシキやコシヒカリなどをつくれる既存の米どころではまだ米が売れるという展望は残っている。ところがここではひとかけらの展望も残されていない。

一割程度減反するのであれば、どうせだから全面休耕して通年出稼ぎにでも行った方がいい。かつての畑作所得以上の減反奨励金が黙って入ってくる上に、通年出稼ぎで稼げば開田のさいの借金も返せる。こうして全面休耕した農家がかなり多かった。それ以外にも、開田地は揚水さえ止めれば容易に畑地化できること、開田以前に畑作経験があること等から、畑作転作に容易に取り組めることもある。この畑作転作の所得と減反奨励金を加えれば、それほどの所得低下はない。

それで減反してもいいということになる。かくして減反達成率が目標の七倍にもなった地域すらでてきた。

また、山村の目標超過達成も多かった。山村となると開田地帯以上に展望はない。面積は零細で土地条件が悪く、過疎化も進んでおり、ここで減反反対などとがんばってもどうしようもない。条件の悪い水田はすべて休んで奨励金をもらった方がいい、ということになり、減反目標が超過達成された。

こうした超過達成地帯もあって、全体として1割減反の目標は達成された。

そしてこの傾向はその後の減反政策の展開中一貫して続くことになった。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】

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