(269)農業と「フィルター・バブル」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年2月15日
「フィルター・バブル」という言葉があります。これはインターネットの検索サイトに関する言葉です。簡単に言えば各個人が見ている画面は、検索サイトのアルゴリズムにより過去の検索履歴をもとに判断され、段々と自分の見たい情報のみが現われるようになってくるため、似たような考え方や嗜好を持つ人達がひとつのバブル(泡)の中に閉じ込められるようになることを意味しています。さて、日本農業はどうでしょうか。
日本農業はかなり長い間、「フィルター・バブル」に入っていたのかもしれないし、まだ抜け出せていないのかもしれない。このようなことを書くと怒られそうだが、そもそも代表的な農産物としてのコメの生産サイクルが年単位である以上、試行錯誤の回数も限られている。現代社会であれば、高校を卒業してすぐに就農して80歳まで現役農家であった場合、60回強のサイクルを経験することになる。
もちろん、時間的にも60年以上をかけるため、その間に蓄積される知見は相当なものになるが、稲作以外にも仕事がある場合や諸事情により農業以外の手間が嵩んでくれば、ある段階で割り切り、機械的な作業になる可能性は否めない。それでも一定の品質を維持している現代の稲作システムは確かにすごいが、経営規模が拡大してくれば農家として考えることが増えてくるのも世の常である。
農業との比較に自動車を出すと、数十年前なら「工業製品とは根本が異なる!」と怒りの声が飛んできたが、コラムということでご容赦願えればと思う。日本を代表する自動車会社のウェブサイトを見ると、1台の自動車を作る作業には、通しで見れば17~18時間が必要なようだ。ただし、大きな工場になるといくつかのラインが同時並行的に走るため、最終的な生産台数と生産時間との関係では1分間に1台とか2台という計算になるという。
ラインが1つなら、コメに当てはめれば二期作ということになるが、実際には複数のラインがある以上、二毛作のようなものと考えても良いであろう。いずれにせよ、与えられた環境条件を最大限に生かして生産性を上げている訳だ。
日本列島は南北に長いため、生育と収穫の時期は南から北へと移動する。現代の社会の教科書に出ているかどうかは不明だが、これはかつて有名になった「リレー出荷」であり、子供の頃は「なるほど」で終わっていた話だ。
だが、思考実験としてはこれだけでは面白くない。仮に東西に生産地が長ければどう対応すれば良いだろうか。これを考えなければ発展性は無いし、さらに次の段階として、そのような環境を備えた国や地域は世界中どこにあるかを考えてみれば良い。そうすれば、どの国のどこの地域にどう目を付ければ良いかが自然に見えてくるはずなのだが、どうも半世紀前から同じ「リレー出荷」の「フィルター・バブル」に入ったままの人や組織が多い。
もう1つ例を挙げれば、近年流行りの農産物輸出である。農産物輸出が増えること自体は喜ばしく、何も否定する理由はない。その一方で、根本的な問題として、そもそも日本は国内で生産する農産物だけで本当に国民の食を賄えるのかという大問題が余り議論されないまま、農産物輸出にいそしんでいるという気がするのは考えすぎであろうか。
何十年も前の学生時代に、当時の途上国が一次産品を必死に輸出していてもなかなか豊かにならない状況を学んだ記憶が蘇って仕方がない。日本で農産物輸出を頑張るのは良いが、それは本来、国民が必要な食をしっかり自国で確保できてからのはず...、こういうことを言えない雰囲気があるとしたら、それも「フィルター・バブル」の呪縛から抜け出せていない可能性がある。冷静に見れば、食料が足りないはずの国でロスや廃棄が大量に出現したり、輸出を振興しているのはどこか不思議な気がしてならない。
* *
目の前のことに夢中になると全体がよく見えなくなってしまいます。携帯で見る情報は内容の取捨選択が自由なだけについ好みのものだけに偏りがち...、要注意ですね。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
学校教育に未来を託す【小松泰信・地方の眼力】2024年11月27日
-
「いい肉の日」契機に和牛消費喚起キャンペーン なかやまきんに君が「和牛応援団長」就任 JA全農2024年11月27日
-
国産トウモロコシで育った仙台牛、12月発売 専門家も肉質を評価 JA古川2024年11月27日
-
【TAC部門】全農会長賞 山本『甘助』が担い手の負担を軽減!!2024年11月27日
-
【JA部門】優秀賞 TAC間のコミュニケーション強化で担い手支援 JAレーク滋賀2024年11月27日
-
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」優良事例30地区を決定 農水省2024年11月27日
-
「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」北海道から3地区を選定 農水省2024年11月27日
-
藤原紀香の『ゆる飲み』但馬の特産品「岩津ねぎ」を収穫 JAタウン2024年11月27日
-
伊藤園と共同開発「ニッポンエール メロン&ミルク」冬期限定発売 JA全農2024年11月27日
-
あぐラボ スマート農業展示会で「JAサイネージ」出品2024年11月27日
-
JA全農たまごの洋菓子店「TAMAGO COCCO」たまご尽くしのスイーツ3種を新発売2024年11月27日
-
国内最大規模となる150MWの太陽光バーチャルPPAに関する基本合意契約を締結 ヤンマーと三井住友SMFL2024年11月27日
-
牛乳・乳製品の楽しみ方グランプリ「Milk Creative Award by 土日ミルク」最優秀賞を発表 Jミルク2024年11月27日
-
【人事異動】全酪連(11月26日付)2024年11月27日
-
「食べチョクコンシェルジュ」生産者と消費者のマッチング方法で特許取得 ビビッドガーデン2024年11月27日
-
「7才の交通安全プロジェクト」全国の小学校などに横断旗を寄贈 こくみん共済coop×コープ共済連2024年11月27日
-
ENEOSと乳用牛及び肉用牛を対象とするGHG排出量の削減に向けた協業を開始 デザミス2024年11月27日
-
北海道えりも産昆布をカレーや春巻きで堪能 職員向け料理教室開催 パルシステム連合会2024年11月27日
-
自主的な市民活動を応援「くらし活動助成基金」贈呈式開催 パルシステム茨城 栃木2024年11月27日
-
益子町と包括連携協定締結 持続可能な農業を推進 bioEgg2024年11月27日