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(271)チェルノーゼム【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年2月25日

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ウクライナ情勢が目まぐるしく動いています。国際政治の背景はわかりませんが、穀物生産の面からウクライナを見ると、世の中のニュースとは少し異なる側面が見えてきます。

「チェルノーゼム(chernozem)」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。中学の歴史では「黒土(black soil)」として学んだ記憶がある。1986年には同国の首都キエフの北にあるチェルノブイリで有名な原発事故が発生した。

ロシア語は不案内だが、チェルノブイリとチェルノーゼムに共通する「チェルノ」の部分は「黒」を意味するようだ。現在のウクライナを中心に東西に延びる肥沃な黒土地帯がチェルノーゼムと呼ばれている。この話を追求すると長くなるので、これ以上の関心がある方は適宜ネットで検索をして頂ければと思う。

ここからは穀物の話だ。約20年前の西暦2000年当時、ウクライナの年間穀物生産量は小麦で約1,300万トン、粗粒穀物で約1,100万トンであり、年間2,400万トン程度の生産量のうち、360万トン程を輸出していた。

当時はソ連が消滅し、旧ソ連12か国を(FSU-12:Former Soviet Union-12)としてまとめて穀物需給を見ていた。FSU-12の中に占めるウクライナの割合は、生産量こそ小麦で2割、粗粒穀物で全体の4分の1程度であったが、輸出量は小麦が3割弱、粗粒穀物では6割弱を占めていた。さらに特徴的な点は肥沃な黒土で収穫される小麦を豊作の年には500万トン近く輸出していたことである。いずれにせよ、ウクライナの穀物生産は年間2,400~2,500万トン水準の国であり、輸出量も小麦と粗粒穀物を併せて通常は300~400万トン程度の輸出国として理解しておけば良かった。

時代が代わり、西暦2020年のウクライナを同様に記してみたい。過去3年の平均で見ると、小麦の生産量は約2,700万トン、粗粒穀物は約4,400万トン(うち、トウモロコシが3,400万トンと8割弱)を占めている。FSU-12の中における小麦輸出のウエイトは3割弱で変わっていないが、粗粒穀物のウエイトは筆者の試算で76%くらいになる。つまり、粗粒穀物の輸出割合がFSU-12の中では大きく伸びているということだ。

割合ばかりを見ると誤解するので、絶対数量を示してみたい。20年前のFSU-12は小麦輸出数量が700~800万トンで、ウクライナが230万トンとご理解頂きたい。現在ではFSU-12の小麦輸出は6,300万トン、ウクライナはそのうち1,800万トンを占めている。文字度どおり「桁」違いになったのである。

粗粒穀物の輸出はより刺激的である。20年前のFSU-12は輸出が200万トン強、ウクライナは130万トンとその6割弱だが、近年ではFSU-12の輸出は4,300万トン、ウクライナはそのうち3,300トン(8割弱)を占めている。

小麦生産量は20年間でFSU-12もウクライナも2倍、輸出数量は8倍以上に伸びている。粗粒穀物生産量は、FSU-12では生産量が2倍、輸出量は20倍に伸びているが、ウクライナでは生産量が4倍、輸出量は25倍に伸びている。

この凄まじい成長は意外に報道されていない。同国が石油や天然ガス、さらに貴金属の面で非常に豊かな資源を抱えていることは理解されているが、世界のフードシステムにおいて、ブラジルと同様、今では欠くべからざる役割を担っていることも理解しておくべきであろう。

チェルノーゼム

それにしても、とてつもない生産量の伸びである。国際情勢は複雑だが、ウクライナもロシアや他のFSU-12の各国も、そしてもちろん欧米諸国もこうしたことを十分に理解した上で様々な交渉を行っていると考えた方が無難であろう。

将来の世界に食料危機が本当に到来するのかどうかはわからないが、人口が増えている以上、必要な食料の量も間違いなく増加することは誰でも理解できる。それにもかかわらず、日本のコメは年々生産量が低下し、食料を輸入し続けている。こういうことに疑問を持たないままの目の前の安値を求めることは日々の生活では仕方がないとしても、やはり何とも言えない気持ちになる。

* *

私も携帯でよく検索をして判断をしますが、「流行り」の動きに惑わされず、時にはじっくりと長期のデータに向き合い、よく考えることが必要ですね。

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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