売り物が減っても価格が上がらない取引会【熊野孝文・米マーケット情報】2022年3月8日
3月3日にクリスタルライスのFAX取引会が開催された。今年1月20日に行われた取引会に続き、今年2回目の取引会だが、前回に比べ上場数量(売り提示数量)が約3割も減ったにも関わらず、価格は低迷したままになっている。通常の感覚であれば売り物が少なくなったのだから価格が上昇しても不思議ではないのだが、なぜこうした現象が起きるのか?その要因の一つに表には出ない取引で成約するという存在があるためで、コメの価格の実態が掴みづらくなっている。
迷走しているとしか言いようがない農水省の「現物取引市場の検討会」。現物市場の姿が見えない最大の原因は売り手買い手とも「自由で公平でオープンな市場」の開設に抵抗があるからに他ならない。このコラムで以前触れたように価格形成センターの取引の実態がどのようなものであったかを振り返ればとてもまともな市場とは言い難かった。コメ業界は食管時代から"マル公"価格(国による買入価格・売却価格)を上手く利用すれば誰でも利益を得る商売が出来た。自主流通米時代も全農系統が示した価格より、安く買えるコメはいくらでもあったので商売がやりやすかった。こうした伝統があるため自由で公平でオープンな公的な市場が出来て、そこで形成される価格が広く社会に伝わるようになると都合が悪くなる人が大勢いるからである。それにプラスして農水省が流通規制や助成金で市場の価格を捻じ曲げるので、こうした制度がある以上まともに市場で戦ってもそうした利権を持たない人は同じ土俵では戦えなくなってしまっている。
具体例を挙げると直接販売している農協の中には全農が卸に示している相対価格よりはるかに安い価格で販売する農協もある。なぜそうしたことが可能になるのか、それは共同計算方式と言う魔法の杖を持っているからである。この杖はインボイス制度が導入される来年10月1日からさらに威力を増す。この制度は集荷販売する際、極めて不平等な課税方法になるため共計方式を持っているところと持たない集荷組織ではまともな競争は出来なくなってしまう。
コメ政策・制度に加え税制面でも大きな不公平が生じるような環境では、自由で公平でオープンな市場を開設してもそれはうまく機能しない。なぜなら最初からハンディキャップを背負って市場に参加しようとは思わないからである。まともな市場を作ろうと思うならまずこうした不平等な環境を無くし、参加者すべてが平等であるというフラットな環境を作る方が先である。
冒頭に記したクリスタルライスの売り唱え玉のうちJA玉の唱え値がいくらであったか記すと、北海道ゆめぴりか(1等東京着基準税別以下同)1万3800円、ななつぼし1万1900円、青森まっしぐら9600円、岩手ひとめぼれ1万500円、宮城ひとめぼれ1万1600円、秋田あきたこまち1万1100円、秋田めんこいな9300円、山形はえぬき1万400円、山形つや姫1万7600円、福島会津コシヒカリ1万2400円、中通りコシヒカリ1万400円、中通り天のつぶ9500円、茨城ミルキークイーン1万600円、栃木コシヒカリ1万400円、とちぎの星9500円、なすひかり9300円、あさひの夢9100円、千葉コシヒカリ1万500円、ふさおとめ9900円、新潟佐渡コシヒカリ1万5400円、岩船コシヒカリ1万5400円、一般コシヒカリ1万4100円、こしいぶき1万900円、富山コシヒカリ1万3000円、福井コシヒカリ1万2600円、ハナエチゼン1万1300円などといった具合である。これらはあくまでも売り希望価格であって、実際に成約する価格は買い手と調整して行われるためこの価格よりも安く成約するケースもある。ただし、民間玉に比べるとやや割高だが、その分JA玉のメリットは担保される。
これが市場で取引される価格であれば良いのだが、実態はそうでもない。仲介業者の中にはあえて会員社に対して割安の売り物を提示しないところもある。そうした玉は別会社で買い取って水面下で販売する。その方が手数料商売よりはるかに実入りが良いからである。もちろん売り手の中には仲介業者を通さず、直接、買い手に割安の玉を販売するとところもあるが、買った業者がその玄米を精米商品に仕立てるとは限らない。玄米をそのまま第三者に転売するケースもある。実際に売り手に廻りまわって自社が売った玉が戻って来たとケースさえある。市場取引とはそうしたケースもあり得るという事を認識しなければ市場そのものを理解し得ない。分かり易く言うと市場は生き物であり、だからこそダイナミックな動きが生まれる。今、コメに一番必要なことは規制や不平等を取り除き、業界全体がダイナミックになることである。
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