プーチンが教える原発リスク【小松泰信・地方の眼力】2022年3月9日
選手が悪いわけではない。だけれども、パラリンピックを観る気がしない。理由は簡単、ウクライナ。
原発攻撃、超えてはならない一線
「ロシアはウクライナへの侵攻に加え、原発などの施設を攻撃するという、越えてはならない一線を越えた。世界の人々を危険にさらす行為で、決して許容できない」ではじまるのは、福島民友(3月8日付)の社説。
爆発事故のあったチェルノブイリ原発を制圧したロシアは、欧州最大規模で一部稼働中のザポロジエ原発に砲撃し支配下に置く。そして、核物質を扱う東部ハリコフの「物理技術研究所」を攻撃し、複数の施設を破壊した。
「稼働中の原発への軍事攻撃は史上初めての暴挙」と指弾し、「原子力災害が確認されていないのは、偶然にすぎない」とする。
「原発事故は多くの人の暮らしを崩壊させ、収束させるには途方もない時間がかかる。それを最もよく知る国として、日本政府は各国の先頭に立って、ロシアに対し攻撃をやめるよう、求めていかなければならない」と訴える。
被災地の計り知れぬ苦悩
廃炉作業が進められている東京電力福島第一原発敷地の最終的な状態について萩生田光一経済産業相が衆院予算委員会の分科会で「具体的に今の時点で示すのは難しい」との見解を示したことを取り上げるのは、福島民報(3月8日付)の論説。
「廃炉後の姿は被災地の復旧・復興に大きな影響を及ぼす。目標なく作業が進めば、ずるずると『最終処分場』化する恐れがある」ため、「早急に明確にするよう政府に迫らねばなるまい」とする。
「廃炉作業に伴って出る溶融核燃料や大量の高レベル放射性廃棄物の処分方法や処分先が決まっていない」ことから、「このままだと『処分方法が決まらないので当面は敷地内に仮置きする』と被災地に再び負担を強いる結果になりかねない」と憂慮する。
そして政府に対して、「被災地の意向を最優先して廃炉の最終形をまとめ、実現に向けた責任を負わねばならない。(中略)放射性廃棄物の処分に向けた取り組みを着実に進める必要がある。(中略)約束が反故とならないよう除染廃棄物の県外処分同様、法的な担保も求めるべきだ。先送りは許されない」と厳しく迫る。
デタラメな廃炉工程
東京新聞(3月8日付、夕刊)で、吉野実氏(在京テレビ局記者)は、廃炉がいかに困難な工程であるかを教えている。
わが国の政府は、福島第一原発(1Fと略)の事故発生当初から「廃炉まで30~40年」としてきた。だとすれば、廃炉まで最長29年となる。しかし事故発生から一貫してこの事故の収束を取材してきた経験から、「絶対に不可能」と断言している。
第1の理由は、メルトダウンした燃料デブリの処理。推計880トンにも及ぶ燃料デブリの取り出し準備は遅々として進んでいない。極めて希望的見解である「現在のロボットアームで持ち上げられるのは最大で10キロ」(三菱重工)であることや故障などがないという大甘の前提でも、年3.65トン、241年かかる。現時点で数10キロ単位で取り出す方法はなく、開発のめどすら立っていないことから、「29年廃炉」は荒唐無稽とする。
第2の理由が、福島民報が取り上げた廃棄物の処分場問題。
「1Fから出るデブリを含めた廃棄物は最大で780万トン」(日本原子力学会)。
「低レベルの放射性廃棄物すら処分場の確保に苦労している現状を見れば、高レベル放射性廃棄物を含む1F由来の膨大な廃棄物の受け取り先を見つけるのは到底不可能」とする。
にもかかわらず、経産省が試算する1F廃炉費用22兆円には、廃棄物処理費用は含まれていないとのこと。
29年、22兆円という数字がいかにデタラメであるか、そして、このデタラメさを放置し続ける姿勢が「1F事故収束を陳腐化させ、ひいては日本のエネルギー政策に対する信頼を毀損する」と、警鐘を鳴らしている。
米軍ヘリから放射線
「東村(ひがしそん)高江の民間地に米軍の大型ヘリが不時着し炎上した2017年の事故で、ヘリの部品から、自然環境の5千倍となる強い放射線が検出されていたことが分かった。海兵隊が翌年までにまとめた報告書を本紙が米情報公開法で入手した。汚染の具体的な数値が判明したのは初めてだ。衝撃的な値である」ではじまる、沖縄タイムス(3月4日付)の社説が報じる米軍の姿勢も、沖縄を、そしてこの国をなめきった、デタラメなものである。
「米軍は当時、事故機が放射性物質を積んでいたことは認めつつ『健康被害を引き起こす量ではない』と説明していた。ところが検出された数値について、専門家は『非常に高い値で健康被害がないとは言い切れない』と指摘する」ことから、米軍による隠蔽(いんぺい)を示唆している。
「そもそも民間地で起きた事故にもかかわらず、日本側が環境調査も捜査も直ちにできない現状は異常だ」とし、「民間地である以上、米軍に国内法を適用すべきだ」と訴える。
めざすは原発ゼロ社会
日本世論調査会が行った「『東日本大震災11年・原発』世論調査」(1月19日から2月28日の間実施。有効回答者数1841人、回収率61.4%)で注目したのは、次の3項目。
(1)政府は原発の再稼働を進めているが、福島第一原発事故のような深刻な事故が再び起きる可能性については、「可能性がある」87%、「可能性はない」13%。
(2)原発を今後、どのようにするべきかについては、「今すぐゼロにする」5%、「段階的に減らして、将来的にはゼロにする」64%、「段階的に減らすが、新しい原発をつくり一定数を維持する」25%、「新しい原発をつくり、将来も積極的に活用していく」5%。
(3)国の高レベル放射性廃棄物の処分計画(ガラスで固めて金属容器に入れ、地下30メートルより深い岩盤に埋めて、数万年以上、人間の生活環境から遠ざける)の安全性については、「安全だと思う」22%、「安全だとは思わない」76%。
以上より、9割の人が福島第一原発事故のような深刻な事故が再び起きる可能性を認め、8割近くの人が廃棄物の処分計画について安全性を認めていない。そして原発の今後については、7割の人が原発ゼロを求めていることが明らかになった。
プーチンの原発をターゲットにした蛮行と原発事故収束の困難性は、人類に原発ゼロに向かって歩み出すことを教えている。
「地方の眼力」なめんなよ
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