(275)バイーア(Bahia)とオレンジ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年3月25日
子供の頃、スーパー・トラディショナルな朝食を食べながらテレビを見ていたところ、米国式朝食風景のCMを見て不思議な気持ちになったことが今でも記憶に残っています。
オレンジ・ジュースを飲み、コーヒーか紅茶とトースト、これに卵とベーコンといった朝食は今ではあちこちで見かける。ファミレスなどでは数百円で提供されているようだ。
さて、半世紀以上前、1960年代の日本はテレビ番組もアニメなどはまだ米国からの借り物が多く、米国の登場人物に日本語で吹き替え音声をかぶせていた時代である。
ご飯とみそ汁が基本でおかずは焼き魚と漬物...、の世界に育った者には朝一番の飲み物は飲んでも瓶詰めの牛乳だったが、その代わりにコップの「みかんジュース」でもなく、グラスから「オレンジ」ジュースを飲むのは何とも言えない異世界の印象であった。
果物は好きなため、後に梨が加わるまでりんごとみかんを良く食べたが、初めてオレンジ、それもネーブル・オレンジを食べたのはいつ頃か、恐らく小学校高学年と思う。
後年、仕事の都合で米国ルイジアナ州に駐在した際、かの地のスーパー・マーケットでは普通に「SATSUMA」が販売されており、よく購入した。これは日本流に言えば、少し種の大きい「みかん」であり、味も食べるための皮むきとその下の白い筋(正確にはアルベド)取りの作業も同じだからだ。
一方、ネーブル・オレンジは今でも時々食べるが、実は最近までネーブル・オレンジとバレンシア・オレンジの違いを余り意識していなかったことに気が付いた。少し調べてみると、ネーブル・オレンジはもともとブラジルから輸入され、当初はバイーア(Bahia)と呼ばれていたという。バイーア=オレンジだったということをかつて覚えたかどうか、実は全く記憶にない。
日本人がポルトガル語を学ぶ際に一番苦労するのが「L」と「R」の発音であり、さらに「G」と「J」と「Z」の発音である。オレンジはポルトガル語では「laranja」と言い、発音が難しい3つの音が含まれているため、どうしても日本語風の「ラランジャ」になってしまう。サンパウロに住んでいた頃、郊外のオレンジ農園に行き、見渡す限りのオレンジ畑から適当に実を取り、手持ちのナイフで半分に割り、そのまま口を付けて果汁を飲み込んだ。その際、発音をしっかり矯正されたことを覚えている。
この印象が強かったせいか、頭の隅に残るポルトガル語の代表的意味としてのBahiaは「湾」と「州名」としてしか思い出せず、ネーブル・オレンジとのリンクが出てこなかった。そういえば、あれはネーブルだったか...と、今更ながら思う。
物の本によると、1870(明治3)年にブラジルから米国へ輸入され、それがワシントンD.C.で定着しWashington Navelとして世界に広まったという。一般的にはバレンシアより表面の皮が薄いというが、余り意識したことはない。
なお、州名とはブラジルの東北部バイーア州のことだ。州都サルバドール(Salvador)は大西洋に面した美しい町である。湾の名称は「聖人達の湾(Bahia de Todos os Santos)」と言い、ポルトガル領時代のブラジルの首都でもあった(首都は後にリオ・デ・ジャネイロへ、そしてさらにブラジリアへ移転する)。
もともとオレンジの原産地は中国南部からミャンマーあたりと言われており、そこから世界に広がったようだ。大豆も原産は中国だが、今では南米が主要生産国である。現在、世界のオレンジ生産量は年間4,884万トン、その中で圧倒的1位はブラジルの1,652万トン、第2位が760万トンの中国である。オレンジも視点を世界に移すといろいろな姿が見えてくる。
* *
米国の田舎に出張した際、宿泊先のモーテルの朝食ではオレンジ・ジュースを飲んだ後、塩味が効いたカリカリのベーコンをいつも好んで食べたものです。あのパターン、しばらくご無沙汰しています。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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