円安で日本米輸出に弾みがつくのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2022年4月5日
急激に進む円安。あっという間に1ドル120円になってしまい、さらに円安が進むというという予想もある。円安は日本米を輸出する生産者や企業にとっては、単純にいうと1ドル100円から120円に円安に振れたということは、海外でこれまでより20%安く日本米を販売しても国内生産者の手取りは変わらないことになるので価格競争力が得られる。日本米輸出に力を入れている生産者組織の担当役員に4年産米輸出に向けて景気の良い答えを期待して話を聞きに行ったのだが、その答えは意外なものであった。
円安には二つの側面がある。一つは冒頭のように輸出についてはプラスになるが、反対に輸入品は円安に振れた分輸入価格が高くなる。
外国産米の店頭価格がどうなっているのか外国人を相手に様々な国のコメを販売している食品スーパーの価格を見に行った。カリフォルニア産カルローズが5キロ精米で1345円(税別以下同)、タイ米1480円、インド産ジャスミンライス2361円に対して日本産米で最も安いものは1405円であった。いまや外国人の台所になりつつあるアメ横ではタイ米を1キロ500円で販売しており、外国産米イコール安いと言えるような状況ではなくなっている。
令和3年度にSBS枠で輸入された外国産米は2万1386t(砕精米7574t含む)で10万tの枠に対して21.4%の落札率に留まった。これ以外にTPP別枠も620tに留まっており、国内での米価安や海外の現地コメ相場値上りに加え、国がマークアップキロ61円を引き下げなかったこともあって低調な落札結果になっている。落札数量が少なかったことにより、これまでのような輸入商社による外米の安値処分玉も少なくなり、国産米の市場奪回が進んでいる。一番分かり易いのが矯正施設(刑務所)でこれまで安値を武器に外国産米の独断場だったのだが、最近の入札では国産米が落札されている。この分野の需要量は年間8000tもあり、決して少ない数量ではない。それだけではなくタイ米を多く輸入する商社は、国内での販売で建値を崩さないことに最大の力点を置いており、卸先の販売ルートまでチェックするという事まで行っている。こうしたこともあって国内での外国産米と国産米の価格差はこれまでになく縮小しており、その価格が外国産食品スーパーの店頭価格に反映されている。
外米の輸入商社にとって困ったことは円安で輸入価格が高くなっていることだけではない。コロナ禍での物流の混乱が収まっておらず、前年度にSBSで落札した分の入船時期は早くても5月の連休明けだとしており、しかも輸送料金が高騰、その代金も負担になっている。輸送料金の高騰は輸入するにしろ輸出するにしろ同じであり、冒頭に記した生産者組織の担当役員もそのことが大きな懸念材料になっている。担当役員によると主力のアメリカ向けのコンテナベースの料金はこれまでの5倍の200万円にもなっているという。これでは円安による価格競争力を得た分が吹き飛んでしまう。
為替の変動もさることながら物流の混乱も輸出入業者にとってはまさに荒波と言える現象で、これを乗り越えなくては前へ進めない。輸出業者にとってさらに重要なことは荒波を乗り越えた先にどんな市場が待っているのかという点である。
ジェトロが最近「海外有望市場商流調査」と題して中国とアメリカ版を公表している。両国の市場の基礎データから商品別のマーケット情報が実に詳細に記されているので、その全文を読んでもらいたいが、コメについても詳しい情報が掲載されている。その中の中国版の一部を抜粋すると、
・2019年、中国国内の日本料理店の数は6万5,000店に達した。その多くは経済が発展し、消費力の高い上海や蘇州などの華東地域や、広州や深圳など華南地域に集中している。
・中国の消費者は近年、環境にやさしく高品質で安全性の高い米を好むようになり、ハイ・ミドルエンド向けの市場が拡大している。これはブランド米にとって好機といえる。ここ3年間、高級米市場は年間平均12%増と成長。中糧の「福臨門」、「北大荒」、「金龍魚」などのブランド米が人気となっている。
・中国では日本米の品種を栽培する農家も少なくない。コシヒカリと同種とされる中国産「越前米」と比較すると、2キロパックの価格が新潟産コシヒカリよりも100元以上安いケースもある。一方、品質面では一部の高級日本米は依然として優位を保っている。
・パックご飯は価格が高い:1パック125~200グラム入りの輸入パックご飯の平均価格は8.5~22元前後。中国産の110~200グラム入りパックご飯は1~6元程度で販売されている。
・ 味や鮮度:日本産の米を使ったパックご飯でも、鮮度や米本来の甘みなどの点で、炊き立ての中国産良質米に及ばないという評価が多い。-と記されている。
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