農業軽視国家に迫る食料有事【小松泰信・地方の眼力】2022年4月13日
「10キロ2千円台で買えるものもあり、農家の労働が報われる価格とは思えないほど、安く手に入る」と生産者に気づかいつつ、「安定して供給でき、安心できる国産の米を、もっと主食に取り込めないものだろうか」として、「小麦粉のかわりに即米粉とはいかないまでも、学校給食のごはんメニューをさらに増やす、米の加工品をもっとアピールするなど工夫をしていけば、小麦不足にあたふたすることも減るのではないか」と、提言するのは塩崎三枝子氏(東京新聞4月12日付、読者の声「発言」)。
米粉への期待高まる
「小麦粉値上げで米粉にチャンス」と題して米粉を取り上げたのは、NHKおはよう日本(4月11日7時台)。
試行錯誤を重ね、小麦粉の15%を米粉に代えてフランスパンを作るのは埼玉県伊奈町のパン屋さん。
これまでは米粉を売り込む方だったが、最近では「得意先や一般消費者から『米粉ありますか』という、問い合わせが増えてきた」と語るのは、栃木県小山市の米粉製造会社の社長。米粉を用いた麺や餃子の皮などの試作品を作り、新たな取引先の開拓にも挑戦している。同社の担当者によれば、小麦粉を米粉に1、2割置き換えることで、「非常にパリッと感が出た」とか「食感が良くなった」との感想が寄せられているとのこと。
ただし、米粉普及の前に立ちはだかるのがコストの壁であることも伝えられた。
1キロ当たり原料価格は米粉約50円に対して、小麦粉約60円と、米粉の方が安い。これは、米粉用米の生産者に交付金が支払われているためである。しかし、手間と時間、それに製粉機の効率稼働が難しいことなどから製粉コストが小麦粉約50円に対して、米粉が約70円から約340円となり、製品価格に大きな差が生じることになる。
今後、小麦の価格が上昇することで小麦粉の価格が上昇し、他方で米粉需要の増大によって製粉コストが低下し、米粉の価格が低下するならば、両者の価格差は縮小する。
また、野口智弘氏(東京農大教授)は、「米粉ならではの良さが、消費者に伝われば広がる可能性は十分ある」とコメントしている。
急がれる「分配政策」の実行
「ロシアによるウクライナ侵攻で、原油や小麦の国際相場は高値水準が続いている。(中略)いずれも輸入依存の構造は変えられず、地政学リスクに振り回される日本の弱点が浮き彫りになっている」とするのは、西日本新聞(4月12日付)。
小麦に関して、「日本は約9割を輸入に頼る。パンや麺に加え、しょうゆなど調味料の材料にもなる。ロシアとウクライナ両国で世界の輸出量の約3割を占める。日本は両国から食用小麦を輸入していないが、ウクライナ危機で他産地の小麦価格が高騰。政府が製粉会社などに売り渡す輸入小麦価格の引き上げにもつながった」ことを伝えている。
熊野英生氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)は、「今後、収穫期の秋にかけて供給が滞ってくると、価格はさらに上昇するだろう」と予想し、小麦の使用される範囲が広いことから、「家計への影響は大きい」とする。さらに、「小麦と大豆やトウモロコシの国際市況は連動しており、今後はより一層幅広い食品の価格が上がる可能性が高い」と展望する。
加えて、岸田文雄首相が物価高騰に対応する緊急経済対策を講じる方針を示したことに関連し、「根本的な対策は賃金を増やすことだ。企業の収益が従業員に十分還元されているとは言い難い」とし、「首相が就任から重視する『分配政策』の実行が急がれる」とは、傾聴に値するコメントである。
必要な骨太の食料安全保障
「日本は高度成長期以降、麦や大豆などは安い海外産で賄う政策を進めた。現在も輸入前提の食品加工、流通システムが主流となる。一方でコメ余りは深刻化し、生乳は供給過剰で大量廃棄の恐れが出ている。矛盾だらけの構図だ」として、「国内生産強化とそれを支える流通・消費が必要だろう。骨太の食料安全保障体制を目指すべきだ」とするのは、北海道新聞(4月10日付)の社説。
3月の参院決算委員会で金子原二郎農相が、「国産米粉を活用し輸入小麦の一部を置き換える」などの安定供給策に言及したことに対しても、「手ぬるさを感じる」と手厳しい。
飼料価格の高騰を取り上げ、「飼料まで国産で育てた自給率はわずか16%に過ぎない」とし、「農協、農家任せではなく国が戦略目標を示すのが筋だ」として、「輸入依存脱却へ政策の転換」を求めている。
さらに、国民の理解を求めるために、「国土保全や食料安保を重視した簡素な公的支援」とすることを提言する。
読売新聞(4月7日付)の社説も、「国連食糧農業機関は、今後数か月にわたって穀物輸出が停滞し、最悪の場合には世界で約1300万人が栄養不良に陥ると試算している。飢餓が広がり、政情が不安定化する国が増えかねない」と危機感を募らせる。
「日本は、小麦の約9割を輸入している。すでにパンや麺類など、幅広い食品が値上がりしており、ウクライナ危機の影響で今後、拍車がかかる可能性がある」として、中長期的な国内の食料安全保障の強化について、論議を始めた政府・与党に対して、「国際連携への取り組みや穀物の国内生産の増強、コメの消費拡大策など、有効な具体策の検討を進める必要がある」と訴える。
弱体化する国内の農業生産基盤
政権与党や農水省が、目眩ましの「輸出戦略」に現を抜かしている間、国内の農業生産基盤は弱体化の一途をたどっている。
日本農業新聞(4月8日付)には、同紙が行った集落営農組織や農業法人を対象とした景況感調査の結果が報じられている。調査は3月に郵送で行われ、全国144の組織・法人のうち75からの回答。
注目した調査結果は、以下の3点。
(1)決算へのコロナ禍の影響について、「大きな打撃を受けた」34.7%、「少し打撃を受けた」48.0%、「変わらない」16.0%、「業績が好転した」1.3%。「打撃を受けた」のは82.7%と8割に及んでいる。
(2)経営状況を5年前と比べて、「良くなった」16.0%、「変わらない」34.7%、「悪くなった」48.0%。5割が「悪くなった」としている。
(3)組織運営で現在困っている課題については(三つまで選択可)、最も多いのが「メンバーの高齢化」57.3%。これに、「販売額の伸び悩み」54.7%、「労働力不足」50.7%が続いている。
大いなる期待を寄せられた組織・法人ですら、厳しい経営状況。これに、生産資材価格の高騰や人件費上昇が追い打ちをかけている。シグナルは赤点滅。この国の食料事情は、まさに「備えなければ憂いのみ」状態。
「地方の眼力」なめんなよ
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