対露制裁が世界に食糧暴動を招く【森島 賢・正義派の農政論】2022年4月18日
表題にある「食糧暴動」という言葉は、あまり好きではない。「食糧危機に起因する反体制運動」と言いたいが、長ったらしいのでやめた。
さて、米欧はウクライナ紛争にかかわって、対露制裁を行っている。その目的は、露の経済を破綻させ、屈服させて、露を米欧の旧来の秩序に組み込むことである。NATOの東方拡大などいうのは、最終的な目的ではない。
だが、それは不可能だろう。米欧の旧来の秩序に戻るのではなく、世界に中露による新しい秩序を作ることになるだろう。
その端緒になるのが食糧問題である。すでに世界の各地で、食糧不足、食糧価格の暴騰を契機にした、心ある人たちの反体制運動が始まろうとしている。
上に2つの図を掲げた。
上の図は、ウクライナ紛争が原因して、世界の穀物価格が暴騰していることを示すグラフである。先々月から先月にかけて急騰し、史上最高値を記録した。これは、ロシアとウクライナの穀倉地帯が、世界の穀物市場に及ぼす影響の大きさを示している。
今後、どうなるか。
春小麦の収穫期が近づいているのに、収穫する人が戦争にかり出されている。また、せっかく収穫しても、戦乱のなかで出荷が滞っている。それに加えて、ロシアは米欧の経済制裁の報復として、輸出を禁止している。
いまの穀物価格の暴騰は、今後も続くだろう。冬小麦の種まきが近づくが、ウクライナは、それどころではないだろう。そのうえ、ロシアには、輸出禁止を解く気配がない。
誰が困窮するのか。
◇
下の図は、ロシア産とウクライナ産の小麦の輸出先である。
輸出先は、この図で示したように、主に中東やアフリカや南アジアである。これらの国々はいずれも低所得国である。だから、安価なロシア産やウクライナ産の小麦が好まれている。
このことは、低所得者ほど、より深刻な影響を受けているし、今後も受け続けることを意味している。
◇
今後、どうなるか。
いますぐに紛争が収拾したとしても、急に供給量を増やすことはできない。工業製品と違って農産物だから、1年はかかる。
想起すべきことは、古くはフランス革命であり、最近ではアラブの春である。いずれも食糧価格の高騰が大きな原因で起こった。社会は混乱し、多くの犠牲者をだした。そして、その末に政権を倒した。
ウクライナ紛争も、こうした社会の激動をもたらすだろう。しかし、それまでの犠牲者を最小に抑えねばならない。
そのためには、戦争状態を早期に終わらせることである。その後で、新しい政体を話し合えばいい。
◇
かつて、この地はタタールのくびきに苦しんだし、ナチスとのドニエプル川をはさんだ壮絶な戦いなどもあった。
それらの全てを、東スラブの3兄弟といわれるロシアとウクライナとベラルーシは、力を合わせて耐え抜き、勝ち抜いてきた。
いま、世界中から求められていることは、3兄弟の和解である。米欧から唆され、挑発されて始めた戦闘の、一刻も早い終結である。
◇
最後に一言。
明後日にG20は会合を開いて、ウクライナ問題を重要な議題にするようだ。
誤解をおそれずにいえば、多くの人が注目しているのは、どの国が、いわゆる正義の主張をするか、という点ではない。どの国が、戦乱を早く終わらせる主張をするか、である。この一点だけに注目している。
どちらに正義があるかは、武器を捨てたあとで議論すればいい。
(2022.04.18)
(前回 親米派の退潮)
(前々回 米型の自由と民主主義のたそがれ)
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