大きく変わり始めたコメ検査とコメ卸の意識【熊野孝文・米マーケット情報】2022年5月3日
農水省が4月22日に公表した「農産物検査の見直しについて」(改訂版)と題する報告書。見直しの項目や新たな検査方法による将来展望まで記されているのでページ数が50ページにもなる。この中に機械鑑定を規格に関する米穀卸売事業者へのアンケート結果が出ている。アンケートを実施した令和3年12月の段階でも「機械鑑定を前提とした規格」を活用すると考えている会員が50%を超えている-と記されている。農産物検査法の見直しが議論され始めた当初はコメ卸業者の機械検査についての反応は薄かったが、大きく意識が変化し始めている。
機械鑑定を前提とした検査規格によって格付された米の今後の使用についてのアンケート調査では、回答者件数として機械検査を使用すると答えた卸が21社、使用しないと答えた卸は1社、わからないと答えた卸が18社になっている。使用すると答えた卸の理由は、①機械鑑定により、平等で正確な検査となる。②機械測定値も妥当であると思われる。また胴割粒などは、目視よりも見逃しづらいと思われる。③機器精度(正確度)の向上から機械鑑定が主流になっていくものと考えている。④納品先によっては数値の提出を求められる可能性がある。⑤基準が明確なため、情報を共有できる。―などとなっている。
報告書には機械鑑定を前提とした規格の表示例として、容積重815g/1リットル、白未熟粒15%,水分14.7%、死米5%、胴割粒8%、砕粒2%、着色粒0.3%といった数値まで書き込まれている。ここで勘違いして欲しくないのは、この数値はあくまでも"例"であり、この数値が機械検査した場合の品位基準を示したものではないという事である。ただし、これを単なる表示例かと思って見過ごすことはできない。
なぜなら農水省は各産地銘柄をバージョンアップした穀粒判別器で検査して、そのデータを公表する準備を進めているからである。例えばコシヒカリは全国各産地で作付されているが、目視検査で1等に格付けされたコシヒカリの容積重等の数値を公表することにしている。つまりこれが1等基準のコシヒカリの機械検査した場合の基準になる。当然のこととして4年産から機械検査してコメの品位がデータで示されるようになるとコメの買い手はそのデータの提出を求めるようになる。すでにそうなることを想定して機械検査に取り組んでいるところがある。
そのやり方はよくそんなことまでやるなと思えるほど徹底している。まずその会社の仕入れ責任者は、自ら検査官の資格を取り、ついでに5つ星マイスターの資格まで取って、自社所有の穀粒判別器を持って産地に出向き、自ら検査して玄米品位をデータ取りする。データ取りする項目は20項目もあり、そのデータを基に目視検査で1等に格付けしたものをさらに品位によってAランクとBランクに分けている。なぜそんなことをするのかと言うと目的は3つある。
第一にコメの検査はいずれ目視検査ではなく機械検査に置き換わり、早めに機械検査に習熟しておいた方が良いと思ったこと。第二に産地と一緒になって自社が扱う産地銘柄米をブランド化したいという思いがある。ブランドになり得るコメは良く知られた銘柄や産地が推奨している新品種ではない。あくまでも自社が評価した品種を徹底した検査で品位と食味を担保して自社独自のブランドにしようという試みである。第三は買い手の需要者が満足する品位のコメを提供し続けるための取組みだという事である。
コンビニのおにぎりや弁当向けに原料米を供給している商社系卸の中には、抜き打ちで委託精米工場の精米品位をチェックするところがある。全国に27工場もあるのだから万が一でもおかしな品位の精米が供給されるようなことがあってはベンダーに示しがつかないという事なのだろうが、そこまでしないと需要者から供給者としての信頼を得られないという事なのだろう。
農水省の報告書には「AI画像解析による次世代穀粒判別器の開発」と題して以下のようなことが記されている。現在の農産物検査は、精米原料となる玄米の被害の有無等を検査員の目視により確認されているが、①地域や検査員のバラツキが発生することや②具体的な測定データを示せないこと等の課題がある。 このような中、令和2年秋から一部検査項目への穀粒判別器の活用が開始されたことから、その画像データと測定数値、各用途での利用適性をビッグデータとしてデータベース化し、検査員による鑑定の相当部分を代替できる次世代穀粒判別器を開発する。これにより、AI画像解析により規格項目を数値で精緻に示すことが可能となり、着色粒・胴割粒の含有量等を考慮した、等級のみではない実需者ニーズに応じた米取引が可能となる―まさにコメの検査は大きく変わろうとしている。
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