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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2008年を超える農業危機・倒産危機にも動かぬ政策2022年5月12日

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食料危機に対処した国内生産の重要性が叫ばれながら、現場の苦しみは深刻化している。肥料、飼料、燃料などの生産資材コストは急騰しているのに、国産の農産物価格は低いままで、赤字が膨らみ、農家は悲鳴を上げている。コメも酪農・畜産も大規模経営の倒産の危機が全国から伝えられている。しかも、国が乳製品在庫の人道支援をやらないなら、自分たちで海外援助もしようと想いある酪農家が動いたが、脱脂粉乳などを購入しようとしても販売してもらえないような状況で、民間の自主的な動きさえ、歯止めをかけられているのは何故なのだろうか。

膨らむ赤字

4月25日に幕別町で開催された十勝酪農法人会(小椋幸男会長)のセミナーでも経営危機の切実な実態が共有され、関係機関、メディア、消費者にも働きかけて、結束して危機打開に行動していくことが確認された。

そのときに提供された数字が危機の深刻さを如実に物語っている。まず、北海道(表1)だが、2月までの生産資材価格上昇で試算しても200頭以上の大規模経営が赤字に陥っている。それ以降の高騰を勘案すると、さらに赤字は膨らんでおり、このままでは大規模層から倒産の連鎖が広がる可能性が現実のものになりつつあることが理解される。

2008年を超える農業危機・倒産危機にも動かぬ政策1.jpg

すでに、今年度の乳価は据え置きで決まっているのに、乳代1kg当たり2円/kgで北海道全体で100億円規模の出口対策(輸入の脱脂粉乳を国産に置き換えるための差額負担)の農家負担金だけが、さらに重くのしかかり、酪農家を苦しめているという理不尽な事態である。

次に、都府県(表2)では、2月までの生産資材価格上昇で試算しても100頭以上が赤字に陥っている。それ以降の高騰を勘案すると、北海道以上に倒産の連鎖が広がる可能性もある。特に、夏場と秋から春にかれての季節乳価差の大きい九州は、すでに全面赤字の様相を呈していると推定される。

2008年を超える農業危機・倒産危機にも動かぬ政策2.jpg

滋賀県の酪農家・中野正一さんのデータを見ても、2020年と2022年を比較すると、乳価格は120円/kgで変わらず、配合飼料は58→73円/kg、乾草55→64円/kg、灯油84→117円/lと、軒並み上昇して経営が圧迫されていることがわかる。

なぜ動かぬ政策、世論

関係者の認識は、2008年の食料・エサ危機よりも農家の窮状は深刻だという認識で一致している。ちょうど当時は、筆者が食料・農業・農村審議会の畜産部会長を務めていたが、緊迫した議論の様子が当時の「酪農乳業速報」(2008年6月13日号、抜粋参照)にも記録されている。

2008年を超える農業危機・倒産危機にも動かぬ政策5.jpg

あのときは、史上初の加工原料乳の補給金単価の年途中の期中改定が行われ、飲用乳についても、kg当たり2円とかの政策的な緊急補填が2度にわたり実施され、まず、政策が動くことで、審議会の議論においても、取引価格についての価格転嫁へのメーカー・小売・消費者の理解醸成を進め、最終的に取引乳価はkgあたり15円引き上げられた。

私は、あのときは、まず、千葉県での講演で乳価運動をリードしていた獣医師の加藤博昭さん(今も大変懇意にしていただいている)に認識が甘いと怒られ、私がNHKニュースで10円アップが必要と発言して、加藤さんから20円ですよ、とまた怒られ、国からは5円ですよ、と両方から怒られたが、大運動が展開されて、流れができた。

今回のほうが深刻なのに、「生乳需給は緩和しているんだから、まず在庫減らすのが先だろう、乳価の話はしないで、在庫減らす分担金を出すべき」と農家は言われて、妙に抑え込まれているような感じに見える。

在庫が増えたのは、国のクラスター事業で大増産を促されていたところに、コロナ・ショックで需要が顕在化できなくなったのが原因だから、まず政府が責任を持つべきことで、それを農家の責任にして、赤字でもがまんしなさい、在庫調整の負担金は出しなさい、というのは間違っている。

十勝では、川口太一氏や井下英透氏らがリードして、国が乳製品在庫の人道支援をやらないなら、自分たちで海外援助もしようと動いたが、脱脂粉乳などを購入しようとしても販売してもらえないような状況で、民間の自主的な動きさえ歯止めをかけられているのは何らかの圧力なのだろうか。

この食料危機の真っただ中で、農家を倒産させるような事態が放置されることは愚の骨頂であり、容認されることではない。生産者へのしわ寄せが大きすぎる。メーカー、小売、消費者、政府、一体となって支え合う行動が不可欠である。

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