売り物が減って価格が上がって来た市中取引状況【熊野孝文・米マーケット情報】2022年5月24日
5月19日に開催されたクリスタルライスのFAX取引会では、59産地銘柄7万1889俵の売り物があった。前回(3月3日)に比べ売り物が4割近く減少した。減少しただけでなく売り唱え価格も前回に比べ1196円、率にして11%も値上がりして1万2099円(全銘柄加重平均)になっている。市中では手持ち在庫を抑えて来たコメ卸が潮目の変わったことを意識してか盛んに買いを入れはじめスポット価格も値上がりし始めた。
「俺から言わせてもらうと端境期に向け100円、200円とジリジリ上がって来た銘柄が下がることはない」と長年仲介業を行って来た業者が先行きの見通しについて自説を口にした。なにせ50年近く仲介業をやって来た業者の発言なので重みが違う。もう一言「これで(量販店等の)値上げが通らず、取引が打ち切られたら新米からの取引は10倍の労力がかかる」とも。まるで先行きの市中相場の値上がりが確定したかのような口ぶりだが、そう言えるだけの外部要因が多くある。
なによりも大きな外部要因は、コメ以外の多くの食品が値上がりし続けていることである。コメとの競合関係で最も分かり易いパンは4月に輸入小麦の売却価格が約17%も引き上げられたこともあって最大手パンメーカーが7月から製品価格を大幅に値上げする。これまでパンは価格の安さと簡便性から朝はパンと言う家庭が増えた。その割合はどの程度かと言うとある調査ではパンが56%を占めており、これに対してコメ(ごはん)は28%に留まっている。コメ業界のご意見番は自身のコラムで「朝は、パン食からごはん食にしてください。国民1人、1日、おむすび1個(100g)食べてくれたら問題解決します。それだけで一気にコメ不足になります。仮説:1億人として1人1日ごはん100g(白米50g)消費増やすと50g×365日×1億=182万5000トン、玄米換算200万トンになります」と記している。
現実にはそうはなっていないが、10月にさらに輸入小麦の売却価格が値上げされればパンからコメへシフトするという動きが出て来る可能性がある。外部要因として直接的にコメに影響が及ぶ要素としては円安が上げられる。円安は国産米を輸出する際に海外での価格競争力が高まることを意味するが、輸出を手掛けている国内の業者にとって頭の痛い問題は輸送コストの高騰で、これを何とか解決しなければならない。
解決策の一つとして国産米を検査せずに玄米で輸出して海外の現地で精米袋詰めして販売する方法もある。特にアメリカ向けは現地の精米価格が国内での需給ひっ迫もあり、ジャポニカ種の価格が急上昇しているため現地で日本米を現地のコメ価格に比べ1.2倍程度で販売出来れば飛躍的に販売量が伸びる可能性がある。それに加え決め事のようにアメリカから毎年MA米として36万トンを輸入しているが、それが続けられるのかと言う問題もある。アメリカ国内でコメが不足しているのにいつまでも決まったように36万トンを日本向けに輸出することが合理的政治判断とは言えなくなっている。
すでに国内での加工用向けアメリカ産米の売却価格は㎏50円も値上げされ、米菓業界等はアメリカ産から国産米へのシフトが始まっている。アメリカのコメ事情に詳しい人物によるとジャポニカ種の主産地カリフォルニアでは干ばつが深刻で来年もコメの作付面積は増やせないだろうと見ており、日本米がアメリカ市場でシェアを拡大できるチャンスが訪れたと見ている。
参考までに冒頭のクリスタルライスの売り唱え価格がいくらであったか主要産地銘柄の価格を記すと、北海道ななつぼしが1万2000円~1万2600円(関東着1等税別、以下同)、ゆめぴりか1万5200円~1万5500円、東北あきたこまち1万1000円~1万2000円、東北ひとめぼれ1万900円~1万2550円、関東コシヒカリ1万800円~1万1300円、新潟一般コシヒカリ1万4400円~1万4600円などとなっており、いずれも値上がりしている。特に値上がり幅が大きいのがゆめぴりかで、一気に1200円以上も上げている。また、これまで安値の玉が目立った関東玉も安値玉は姿を消し、先週末に行われた業者間の席上取引会では、コシヒカリが置場条件で1万800円まで買われた。
コメの相場動向を知る一番の方法は実際に席上取引会が行われている場所に行ってみることである。コロナ禍でこれがままならない状況が続いたが2年ぶりに会場でリアルに開催された取引会で状況が変わったことが肌身に感じられた。
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