MA米大幅値上げの説明がなされない理由とは【熊野孝文・米マーケット情報】2022年6月7日
4年産米の動向を知るうえで一つのポイントとなるものに農水省が調査している作付意向調査がある。第二回目になる4月末時点での調査結果が2日に公表された。主食用の作付転換が必要な面積3万9000haに対して約3万5000haが減少見込みとされている。主食用からの転換で加工用米が増えた県は21県(前回1月末現在は16県)に上る。加工用米の需要者である米菓と味噌業界はMA米が大幅に値上げされたことから国産米にシフトするものと見込まれているが、現実はそう単純ではない。
4年産加工用米の買い手として需要増加の期待が高いのが、米菓と味噌業界である。この業界は外国産米や特定米穀、加工用米といった幅広い原料米を使用しているという共通点がある。今、この業界で大問題となっているのは、農水省がMA米アメリカ産の売却価格を大幅に引き上げたことで、先月には2回にわたって農水省になぜこれほどまでに売却価格を引き上げる必要があるのか糺しに行った。この問題は後述するとして、ちょうど総会が終わったばかりなので、その総会資料を基に米菓・味噌業界がコロナ禍においてどのような状態になっているのか概要を示したい。
米菓の生産量は、令和2年3~5月は巣籠もり需要で前年比105%と伸長したものの、3年度は需要が例年並みに留まったことに加え、需要喚起が期待される年末・年始の贈答用品販売が低調で、通年では前年より2.2%減の21万9000tになっている。あられ・せんべい別では、あられはほぼ前年並みの9万4000tになったが、せんべいが約5000t落ち込んで12万1000tに留まった。菓子業界全体では3年度は前年を1.2%上回ったが、米菓はそうはなっていない。
原料用米の使用状況は、全国米菓の共同購入分の加工用米は3年産うるち米が前年産比109.8%の1737t、もち米が同106.4%の4675tになっている。これは加工用米の複数年契約が進み、安定購入の道筋が整ったことが大きい。ただ、コロナ禍で極端な需要の落ち込みで契約数量のキャンセルを申し出た組合員メーカーもあった。3年産加工用米の60㎏玄米当たり加重平均価格は前年産より921円値下がりして8307円になっている。MA米は、アメリカ産うるち精米の3年度使用量は競合する特定米穀が安かったこともあり、買受数量が多かった平成30年度に比べ約3割の1383tにまで減少した。
買受け価格は、今年に入ってアメリカ国内のコメ価格上昇に加え、運賃高、円安も加わって1月~3月分が㎏当たり149円に、さらに4月~6月分は177円にアップされた。これは昨年までの価格に比べちょうど㎏50円もの大幅値上げである。
味噌の3年度出荷数量は38万3637tで前年度に比べ1万58t、率にして2.6%減少した。2年度も2.8%減少しているので2年連続減少したことになる。落ち込んだ最大の原因はコロナ禍で外食需要や観光地での著しい落ち込みが響いた。さらに総務省の家計調査では、3年度の一世帯当たりの味噌の支出金額は年間2127円で前年度に比べ6.2%減少、数量ベースでも7.3%減少している。3年度の原料米使用量は、国産米が3万9005t(内訳:加工用米5665t、特定米穀3万1402t、一般米1743t)に対して外国産米が3万6928t(内訳:タイ米2万4482t、アメリカ産米1万1729t)である。アメリカ産米は多い年では3万t程度使用していたが、売却価格が他原料米に比べ割高であったこともあって購入量が減少している。さらに今年に入り2回の値上げで極めて高い原料になった。困ったことに製造設備が整っている大手味噌メーカーは使用原料米を柔軟に変えられるが小規模メーカーはそれが出来ない。
国はMA米の保管、エサへの処理経費等に毎年300億円も注ぎ込んでいる。財務省の資料には「加工用途への販売は、売却額の面で飼料用等の他用途と比較して有利であり、売買差益が期待できる」と記されているが、その売却比率は18.5%に留まっている。エサ用に㎏20円程度で売却するぐらいなら加工用向けの売却価格をこれほどまでに引き上げる必要はない。そのことを需要団体は説明を求めに行っているのだが農水省からは一切の回答がない。
米菓・味噌とも国内の需要は落ち込んでいるが、海外向け輸出は好調で、味噌は今年に入ってからも中国向けが197%、フランス向けが193%の大幅な伸びを記録している。せめて海外向けに輸出するコメ加工食品の原料米は安く提供できる仕組みを作ってもらいたいものである。
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