(285)ウクライナ出身の著名人【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年6月10日
ウクライナ出身の著名人はたくさんいますが、意外に気が付かないことも多いですね。今回はほんの一部をご紹介しましょう。関心を持った人は、ネットで調べて頂ければと思います。
タラス・シェフチェンコ(1814-1861)
余りにも有名な、しかし日本ではなぜか一般には余り知られていないウクライナ最高の芸術家(詩人・画家)である。その人生も凄まじい。有名な詩集に『コブザール』がある。
実は、感情を正確に表す文学作品や詩作に用いる言語の選択は非常に難しい。時の政治情勢や環境、正統とされる考え方などに大きく影響されるからだ。彼の時代、(少なくともロシア帝国内では)ウクライナ語はロシア語の一方言のように考えられていたようだが、シェフチェンコにより「はじめて高度な内容、複雑な感情を表現できる言語としての地位を得た」(注1)とされ、いわばウクライナ人の「心の叫び」を明確にウクライナ語で表現した人物である。
なお、1834年に設立されたウクライナの名門キーフ(キエフ)大学の正式名称は、National Taras Shevchenko University of Kyiv(タラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学)である。キエフをキーフと直すのであれば、シェフチェンコもシェウチェンコと表記した方が良いのかもしれないが、ここでは従来のままにする。
ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)
こちらも余りにも有名なロシアの作曲家だが、祖父の代に伝統的なウクライナの苗字(チャイカ=カモメ)から改めたとの記述がwikipediaに見られる。そうだとすると出自の関係で本人にはウクライナに対する様々な思いがあったのであろう
1872年の交響曲第2番の愛称は「小ロシア」、英語では「Little Russian」だが、これはもちろん帝政ロシアの時代のウクライナのことである
また、誰もが一度は聞いたことがあるであろう「ピアノ協奏曲第1番(作品23)」は1875年の作だ。第1楽章の主題は「カーミアンカの町で盲目のコブザ(八弦の民族楽器)弾きが歌っていたのを採譜したもの」(注2)といわれている。先に述べた「コブザール」とは「コブザ」を引く人のことだ。盲目のコブザ―ルは、筆者には盲目の琵琶法師を思い起こさせる。
カーミアンカ(ロシア語音ではカーメンカ)とは、キーフの南にある町のようだ。チャイコフスキーはこの町をこよなく愛したようで、「白鳥の湖」(1876)年も、「カーミアンカの甥や姪たちのために作られた一連の舞踏劇がその原型」(注3)と言われている。
ちなみに、日本とロシアにおける千島・樺太交換条約は1875年、チャイコフスキーがピアノ協奏曲第1番を作った年である。こう覚えておけば印象に残るはずだ。
ウラディミール・ホロヴィッツ(1903-89)
演奏家としての音楽家を一人紹介するとホロヴィッツになる。彼はウクライナ生まれのユダヤ人ピアニストで、後に米国に活動の場を移す。説明は無用であろう。今、聞いても素晴らしい演奏がいくつも残っている。筆者も一時期、夢中になった。
イリア・メチニコフ(1845-1916)
メチニコフの名前は知らなくても、ブルガリアでヨーグルトを摂取している人々が長寿であることに気が付き、ヨーグルトの効用を説いた微生物学者と言えば「なるほど」と思うのではないだろうか。彼はここ数か月で日本でもよく報道されたウクライナ第2の都市ハルキウ(ロシア語ではハリコフ)の出身である。
セルマン・ワクスマン(1888-1973)
もう一人、キーフ近くで誕生し、22歳の時に米国に移住したユダヤ人微生物学者がワクスマンである。現代人は彼の仕事に極めて助けられている。最も有名な業績は不治の病と考えられていた結核の治療に効果がある抗生物質ストレプトマイシン、そしてその他多くの感染症の治療に有益な多数の抗生物質を発見したことである。抗生物質という言葉そのものもワクスマンの造語と伝えられている。
* *
おっと、ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)を忘れてはいけませんね。彼もウクライナ人です。この他にも多数の芸術家や学者がいます。少し調べて見ると驚くばかりです。
(注1)黒川祐次、『物語 ウクライナの歴史』(2002)、p.145.
(注2 同、pp.139-140.
(注3)同、p.140.
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