「出荷段階で小麦粉と価格が逆転」米粉の需給状況は緊急事態【熊野孝文・米マーケット情報】2022年6月14日
久しぶりにリアルで開催されたコメ関連団体の総会を取材した。その団体とはNPO法人国内産米粉促進ネットワーク(略称キャップネット)で、6月8日に都内で通常総会が開催された。総会終了後、役員や会員社のリレートークが行われたが、この中で、理事の一人が高騰する小麦価格と米粉の情勢について報告、かつてないほど米粉に関心が高まっていることや具体的な価格動向について「工場出荷段階の価格は小麦粉と米粉の価格が逆転している」と述べた。これまで米粉の普及が進まなかった要因は米粉の価格が小麦粉より割高だったことが上げられるが、これが逆転したとなると状況が一変する可能性がある。
農水省の調べによると米粉の製品価格がキロ当たり120円から390円であるのに対して小麦粉の価格は110円程度になっている。この価格は3年度のもので現在どうなっているのかは調べていない。4月から輸入小麦の売却価格が約17%と引き上げられたので、少なくともその分は値上がりしているはずで、実際に小麦粉製品の値上げラッシュが起きている。10月にはさらに輸入小麦の売却価格が値上げされるものと予想されており、今後、小麦粉の価格は上がることはあっても下がることはない。そこでにわかに注目を浴びているのが米粉なのだが、このまま小麦粉代替品として米粉に需要が集まるとそれだけのキャパがあるのかという疑問が涌いてくる。
農水省は米粉普及推進策の一環として4年度の戦略作物生産拡大支援で「新たな米粉表示の推進・低コスト化技術普及支援事業」を公募したが、この中で事業成果目標として「令和2年産の3万6000tから10%以上増加させること」を上げている。4年産の米粉需要調査では4万3000tが見込まれており、産地がこの需要通り米粉用米を生産すればこの目標は達成されることになる。ところが現状はそれをはるかに上回る需要が沸き上がりそうなのだ。このことについてキャップネットの役員は「小麦粉需要量500万tのうち1割でも米粉用に振り替えられれば50万tになりますから」と分かり易いことを言う。まさに桁違いの需要に対応しなければならないのだが、それは無理な相談だ。なにせ小麦粉製粉会社は大手であれば1社で年間85万tも製粉しているが、米粉製粉会社は全部合わせても4万t程度で「フル稼働しても全部で4万3000tが限界」だという。つまり4年産で4万3000tの米粉用米が生産されてもそれ以上製粉する設備がないという事。
そんな見通しもあったのか国は輸入小麦等食品原料価格高騰対策事業として100億円を計上、輸入小麦から米粉や国産小麦に原料を切り替えた場合に開発設備等を補助する。この事業に採択されると原料米代金として1億円、開発費として2億円、計3億円が補助される。公募はこれからだが民間の窓口はJTBに決まった。
米粉の商品開発や販売を支援するところは国だけではない。東京都は4年度の補正予算で米粉の商品開発や販促支援策として8000万円を計上した。都の産業局によると、支援策としては米粉産地との提携や消費者向けにウエブサイトを開設して情報発信することにしており、現在、具体策を詰めている段階。自治体がこれだけの予算を組んで米粉を支援するという例は珍しいが、都では「大消費地である東京で国産農産物の利用拡大を図る」ことを最大の目的に置いているという。
以前、10億円もの資金を注ぎ込んで北陸に微細粉製粉が出来る湿式の米粉製粉工場を建設した会社があった。この会社は商品開発にも熱心で、米粉を原料にした日持ちする酵母パンや米粉原料のラーメン用の麺の開発も手掛けていた。それでも自社で製造する米粉の供給量を満たすだけの需要を確保出来なかったことから、この会社のオーナーが大手ハンバーガーチェーンにライスバーガーを提案しに行った。その際にハンバーガーチェーンとの交渉の一部始終を聞かされた。その時分かったのが業務用小麦粉の世界の奥深さと銭単位の価格交渉の熾烈な現場の状況である。結果的にこの会社の米粉は採用されなかったのだが、今であればハンバーガーチェーン店側は米粉をいくらでも持って来てくれと言うはずである。
今、米粉を欲しがっているのはハンバーガーチェーンだけではない。大手外食企業ではうどんの原料に米粉を使うことにしている。これら大手が本格的に米粉を使いようになればキャップネットの役員が言うような状況になる可能性がある。大手小麦製粉メーカーが緊急的に米粉製粉を手掛けることになった場合、原料をどうするのか農水省に政府備蓄米を売却するのか聞いてみた。答えは「備蓄米は緊急の場合の備えであり、それはない」とのことであった。
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