地方の心臓が止まるのを待っているのか【小松泰信・地方の眼力】2022年6月29日
「…日本の毛細血管は中小企業や個人の商店だ。これらが底から経済を支え、街を支え、定型や支配に向かう何かから常にものごとを意外な方向にずらして進化へと導いていたのだ。それを台無しにしたのはもちろん時代の流れもあるが、小泉という人の時代からであろうと思う。あれからじょじょに、外圧も含めて日本からは中小企業と個人商店が消えていった」(吉本ばなな『私と街たち(ほぼ自伝)』河出書房新社)
「東京一極集中の是正」を争点に
吉本氏は、その情況を「街の心臓が止まるのを待っているようなものだ」と表現する。
その上で、「ただ、人というものは意外に雑草のようにしぶといので、生命の動きは地方に拡散されてかろうじてまだ生きている。...時代は地方に向かっているのだろう。可能性はそこにしかないとも言える」と、視座を切り換える。
山陽新聞(6月14日付)の社説は、参院選公示前に示された各政党の公約が、「外交・安全保障政策や物価高対策、新型コロナウイルス対応など」を主要テーマとしていることから、「東京一極集中の是正」を、その陰に埋没させてはならないとした。
なぜなら、「『東京圏』(埼玉、千葉、東京、神奈川)への過度な人口集中は地方の衰退だけでなく、大規模災害時などに国全体の社会経済活動を停滞させるリスクが指摘されている」にもかかわらず、各党の公約からは「危機感が伝わってこない」からだ。
「地方創生として政府はこれまで東京圏の転入者と転出者を均衡させる期限を定め、地方に本社機能を移す企業への税制優遇や政府機関の移転といった政策を打ち出した。十分な成果は出ておらず、政府内で一極集中是正の機運がしぼんだともされる」としても、決して「先送りできる問題ではない」と訴える。
政府が「今後、構想の総合戦略をまとめ、各自治体に地方版の戦略を作るよう要請する」としていることについても、「地方創生でも批判があった」と釘を刺す。他方、野党にも対案を求め、「手法の是非や構想の中身を含め、各党は一極集中の是正策を競うべき」とする。
「地方活性化」「地域政策」への関心は高くないが
共同通信社は、参院選の有権者動向を探るために全国電話世論調査(対象は全国の有権者2,830人、回答者は1,247人、回答者率44.1%)を 6月26~28日に行った。
「投票において最も重視すること」という問いに対して、最も多いのが「物価高対策・経済政策」41.8%。これに「年金・医療・介護」17.6%、「子育て・少子化対策」8.5%が続く。「外交や安全保障」は7.2%で第4位。「地域活性化」は2.9%で9位であった。これは「その他」「分からない・無回答」を除くと最下位である。
地域活性化を地方活性化と近似したものとして捉えるなら、地方活性化への有権者の関心はきわめて低い。
前回の当コラムで取り上げた日本農業新聞農政モニター調査の結果概要においても、岸田政権に期待する農業政策(三選択可)への回答で、「地域政策」としたのは13.4%。「その他」を含む17の選択肢中10位。農業者の関心も決して高くない。
なお、地方の活性化に向けた必要な対策(二選択可)については、最も多いのが「地方への移住、定住対策」39.3%。これに「地方への財政支援」34.6%、「半農半Xやマルチワーク(複業)など多様な働き方の支援」24.5%、さらに「都市農村交流や関係人口の創出」20.8%、「地方自治体の人材育成」19.4%が続いている。
必要な地方に特化した政策
「人口減少や東京一極集中の流れに一向に歯止めがかからない。危機感を持った論戦が求められる」で始まるのは福島民友新聞(6月25日付)の社説。
福島県の人口が「ことし4月に約179万6000人となり、戦後初めて180万人を下回った。人口の男女比をみると20~49歳の世代は女性が男性よりも少ない」ことを取り上げ、「人口の減少を緩和するために特に重要なのは、都市部に転出した女性が地方に戻りたいと思える仕事や子育て環境などをつくること」とする。
しかし、「各党とも、少子化対策などを重視する姿勢はうかがえるが、地方に特化した政策分野に位置付けられた女性に関する公約は少ない」ことから、「女性が地方で充実した暮らしを送れるようにするための政策を示してほしい」と訴える。
さらに、同紙(6月28日付)の社説は、最大の争点となっている急激な物価上昇対策を俎上にあげ、「物価高の最大の問題点は、賃金の上昇が物価に追い付いていないことだ。各党とも賃上げに向けた政策に公約の多くを割いている。ただ、地方と都市部の賃金の格差是正への議論は低調だ。賃金は都市部ほど高い一方で、経済減速の影響は都市部より地方で長期化しがちだ。各党には地方を念頭に置いた経済と賃上げの議論が求められる」と鋭く迫る。
地方自治は民主主義の土台だが
「1990年代以降の一連の地方分権改革によって、今はどの自治体も国と対等・協力の関係にあると位置付けられている。権限と税源の移譲も徐々に進められてきた。それでも地域のことは地域で決める『地域主権』には遠い。なにより国の意識が変わらない」と、慨嘆するのは信濃毎日新聞(6月29日付)の社説。
例えば、安倍政権下に打ち出された「地方創生」における、「地方都市の機能を集約する構想」や「総合戦略など山のような書類作りを自治体に迫るやり方」を取り上げ、「中央集権の発想から脱していない」と斬り捨てる。
また、「総務相がマイナンバーカードの普及率に応じて来年度から地方交付税の算定に差をつける方針を示した」ことを取り上げ、「国が保障すべき自治体の財源を政策誘導の手段に使う」ことに、「いかにも上から目線」と突き放す。
参院選で地方政策が焦点になっていないことを嘆きつつも、「住民の意思と責任の下に施策を行う地方自治」を「民主主義の土台」と位置付け、「自治体が持ち味と魅力を磨くことによって、多様さを増す働き方や生き方を受け止める場となり、暮らしの豊かさへとつながっていく」と、地方自治にエールを送る。
そして、地方に暮らす人々には、「暮らしているこの場所から声を上げていこう」と、問題提起を呼びかける。
アンケート結果に示された地方活性化や地域政策への関心の低さは、必要度の低さを意味していない。それら以上に、可及的速やかに解消しなければならない多くの課題が眼前に突きつけられている、と考えるべきだろう。
しかし、政策対応の優先順位を下げるほどの余裕は地方にはない。何せ、鼓動が弱くなっているのですから。
「地方の眼力」なめんなよ
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