【JCA週報】終焉を迎えた農業政策のなかで(石原健二)2022年7月4日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、各都道府県での協同組合間連携の事例や連携・SDGsの勉強会などの内容、そして協同組合研究誌「にじ」に掲載された内容紹介や抜粋などの情報を、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、現在の「にじ」の前身である「協同組合経営研究月報」1996年8月号に、当時の研究員であった石原健二氏が執筆された「終焉を迎えた農業政策のなかで」です。
終焉を迎えた農業政策のなかで 財団法人協同組合経営研究所 研究員 石原健二
3年続いた食管法はこれで本当に役割を終えた。
日本の農業政策は、明治政府の近代化政策以来、多かれ少なかれ穀物価格政策、なかんずく米価政策と農地政策の二つだった。農地政策は農地改革以後は、安上がりの構造政策になり、米については、政府の役割は輸入米の管理とはっきりしない備蓄に縮小された。その意味では、少くとも農基法以降の農業政策は終焉し、跡かたもなくなった。ところで米は流通規制の緩和でスーパーでは目玉商品化し、小売市場には商社を含めたあらゆる業種が進出することとなった。米市場は開放されたのだ。
振り返ってみれば、列島改造論とバブルで農地が企業と投機筋に開放され、金融自由化ではいち早く農村と個人金融市場が都市銀行に開放され、今回の食管の終末は、結局量販店と商社に開かれたものになるのだろうか。少なくとも、大規模米作農業者には、開かれたものにはならない。なぜなら、ことし米が平年作であれば、米の価格が下がることは明らかだ。来年の生産調整はどうなるのだろうかと心配になる。にもかかわらず、ミニマムアクセス米は40万トンを超えて入ってくる。輸出国が不足払いや所得政策をとり、輸入国がまったく裸のまま、政策もなくなすすべなく時を過している。
ひとたび緩め、既得権益化した権利を、企業や商社が危機管理で再び93年の凶作時のように、政府に戻すだろうか。というより、どのような生産の状態を農業の正常な時点というのか、政府も財界も、明確にしてもらいたい。
先日、「アダム・スミスの失敗」という本を読んだ。著者のラックスがいうのは、アダムスミスのいった利己心(セルフ・インタレスト)は、本来、自制心や一般的な道徳や倫理感に裏打ちされたうえのもので、これが「見えざる手」をもたらすものであった。それがいつのまにか、新古典派経済学ではこれらの慈愛心が剥ぎとられ丸裸の利益追求のみが正当化されるようになったと、「経済学の犯罪」としてこの経済学を批判している。
"持っている人には与えられ、持っていない人は取上げられる"とは聖書の言葉だが、弱者は泣き寝入りと死あるのみなのか。
上記の著者は、モンドラゴンの生産協同組合を1つの方向として示している。米も農協と生協のさらなる協同組合としての取組みの進展に期待するしかない。
財団法人 協同組合経営研究所 協同組合経営研究誌「協同組合経営研究月報」1996年8月号 No.515より
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