アンケート調査の実施検討前に、大事な2つの「仕事」【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年7月5日
改めたい、"初めにアンケート調査ありき"
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
JAの仕事を受けるようになって、驚いたことの一つが、組合員アンケート調査です。
"JAはアンケートがお好き"なのですね。
すべての正組合員を対象に実施するアンケート調査の実施は、全組合員の意向を聞いたという調査事実に間違いはありません。集計した結果について、コメントをつければ、立派な報告書が出来上がります。計画書の作成後、付属資料として、この分厚いアンケート調査結果を添えると、計画書は組合員の総意を結集した計画書であるといった印象を与えます。
でも、実際はどうでしょうか。全組合員アンケート調査によって得られた結果は、JAの中長期計画の策定にどのように活かしているのでしょうか。あるいは、地域農業振興計画の策定において、どのように活かされるでしょうか。残念ながら、アンケート結果が計画の骨子や具体的な対策に、直接反映することはほとんどないといっても良いでしょう。
計画策定プロセスに参画するJA職員に話を聞いてもらえればわかります。アンケートに関連して重視することがあるとすれば、集計結果よりも、アンケート票の最後にある「自由意見」欄に書かれた文章について丹念に目を通し、貴重な意見をピックアップすることでしょうか。
計画づくりに際して、"初めにアンケート調査ありき"の考え方は改めたいですね。合併によって、組合員数が増えれば増えるほど、アンケート調査に期待する傾向もあります。計画策定にコンサル会社を入れている場合は、アンケート調査を強く薦めるケースが多いです。
しかし、組合員の農業経営の現状、JAとの事業取引の状況など、組合員格差は大きく広がっています。すべての組合員を対象にするアンケート調査が有効かどうか。あまりに違いがあるので、調査対象を分けないと、組合員全体の意向把握は難しいでしょう。
計画策定の着手で、最初に行いたい2つの「仕事」
3~5年の中期の地域農業振興計画策定を目的に結成されたプロジェクトチームのコンサル事例をもとに、最初に取りかかりたい2つの「仕事」を紹介します。
一つ目の「仕事」は、地域の農業に関するデータ・資料の収集活動、具体的には、直近の農業センサスの結果やJA管内の行政機関が収集した農業生産、農地、農業者などに関するデータを集めます。その際、各行政担当者のヒアリングを行い、行政が実施してきた施策、今後の農業施策を把握します。
多くのJAは広域合併をしているので、関係する市町村の数が多く、担当窓口とのアポイントや情報・意見交換は、かなり手間と時間を要します。さらに、JAも手ぶらでは行けませんので、これまで取り組んできた地域農業に関する振興施策や営農指導活動とその体制、販売事業の具体的な実績・推移などを、わかりやすく簡潔な資料にまとめて持参することになります。
この資料づくりを含め、プロジェクトチームの最初の「仕事」は、ちょっとした"力仕事"になります。この作業を手抜きすると、その後の行政との連携、食品関係企業、流通企業との情報交換・提携、地域の消費者団体やNPO法人との協力関係づくりなど、農業振興計画の広がりと可能性、多様な企業・組織との実質的な連携展開といった計画の大きな可能性を喪失してしまいます。ちなみに、この資料は、理事会をはじめ、組織内外を対象にしたものとして活用できます。
続いて2つめの「仕事」は、農業を行っている組合員の経営内容と、JAとの事業の取引状況、JAの組織運営への参画状況について、「関係性」(事業取引量とJA利用度合いなど)を把握する作業です。これは、かなりの"力仕事"になります。
地域のリーダー的な存在の農業経営者、農業経営規模、生産力、粗生産額、JAへの販売額、経済事業の利用額、信用・共済事業、営農指導員との関係性など、多様な視点で、個別の組合員・農業経営者との関係を数値化していきます。
どのような農業経営を、どのように分類するか。さらに、把握対象を経営的規模、主力生産物、経営者の属性、JAとの事業取引実績などで、どう区分するか。ここまでが2つめの「仕事」です。ただし、最初から、あまり詳細なものを作ろうとしないことです。
この2つの「仕事」で、アンケート調査が必要か。行うとすれば、どういう農業経営者を対象にするか、何を質問するか、という段取りになります。
実は、この時点で、計画本体のフレームワーク、仮説目標、チームとしての検討作業手順が見えてきます。
◇ ◇
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