コメ作りを変える進化し続けるドローン【熊野孝文・米マーケット情報】2022年7月12日
商系集荷業者が主催したコメ作り研修会の会場にドローンが展示され、その場でスマートホンを使って起動させると言うデモンストレーションが行われた。このドローンは完全自動散布・自動航行が可能で、スマートホンで起動させるだけで、予め定められた圃場で播種や農薬散布を行うことが出来る。実際に圃場での播種や農薬散布の模様が動画で紹介されたが、進化し続けるドローンがコメ作りの現場を革新的に変えて行く可能性が実感された。
中国製のXGA‐P30
会場で展示紹介されたドローンは、中国製のXGA‐P30で、販売代理店の担当者が「直播や除草剤等を散布できる完全自動のドローンで、使用するのはスマートホンとほ場を測定する測量計だけです」と述べた後、実際に作業している状況を動画で紹介した。水稲種子の播種は、農業大学の依頼を請けて実施されたもので、鉄コーティングした水稲種子をドローンで空散。秒速6.5mで10aを3分4秒で播き終える。播種から10日ごとのほ場の模様も写真で紹介された。
また、除草剤の散布では、ほ場の面積や散布し終えるまでの時間に加え、終了後の除草剤の残量が示されたが、これは必要量をほ場に確実に撒けたかを確認するためで、動画では21gが散布装置に残っていた。これは30aのほ場面積を設定して除草剤を散布器に入れたのだが、実際の面積は28aでその差2a分の除草剤が残ったことを意味している。
「従来のコントローラーを用いたドローンでは除草剤等が飛行途中で無くなったり、余ったりすることが度々起こりますが、P30であればドローンの操作の腕は関係がないので、設定した面積に設定した量を綺麗に撒いて出発地点に戻ってきます」と説明、それを可能にしているのが固定局と移動局という2つの測量計。はじめに移動局で作業するほ場の4隅を計測すれば、その部分だけをドローンが飛行するようになり、その模様はスマートホンで確認出来る。
スマートホンの画面右側に飛行速度、高度、散布器の種子や農薬等の残量、バッテリー残量が表示されるため、仮にバッテリー残量が少なくなると画面上にビックリマークが表示されるため、これを見た操縦者は「ゴーホーム」のボタンを押せば自動でドローンが出発地点に帰って来る。また、ドローン上部に取り付けるようになっている「粒剤散布装置」も優れもので、エアジェットテクノロジーにより高速エアーフロアーを生成し、ターゲットエリアに粒子を吹き付けられるようになっている。しかも粒子のサイズは1ミリから10ミリまで対応出来る。また、機体の4ヵ所に障害物検知レーダーが装着されており、衝突の危険を回避できるようになっている。
研修会では、シンジェンタジャパンや日産化学、三井化学アグロ、多木化学などが除草剤や肥料の商品説明に当たったが、いずれもドローンによる空散用の資材を紹介した。空散用の除草剤では豆粒剤で小規模面積の圃場でもドリフトが起きにくく、自己拡散するため省力化に役立つものや、このところの高温・多照で追肥が必要になっているが、炎天下での作業は熱中症の危険もあるため、ドローンで撒く追肥と言った商品も紹介された。これを使用すると6割方作業時間が短縮されるという。また、主催社もこのドローンを購入し、10a当たり1800円で除草剤の散布を請け負うことを生産者に告知した。
こうした最新のドローンの情報が提供されると生産者の関心も高く、質疑応答では生産者から「20haを耕作しているが、ドローンの購入代金はどのくらいでペイできるのか」といった質問もあった。これに対して販売代理店側は年8回の稼働としても2~3年で機器代は回収できるとし、さらには生産者の中にはドローンを購入して委託散布を行っている事例もあると答えた。
農水省は2019年に策定した「農業用ドローン普及計画」で、2022年に水田を中心とした土地利用型農業の作付面積の半分以上と言う目標を掲げた。農薬散布については100万haという具体的な面積を示している。2020年のデータでは11万9500haになっている。水稲直播の実証としては、岩手県で行われた結果として「通常移植の10a当たり4.05時間(育苗+田植え)と比較するとドローン直播は0.82時間(コーティング+播種)で、作業時間80%削減」と記している。2021年のデータはまだ公表されていないが、空散使用できる農薬の種類も増えていることや積載量が大幅にアップしているドローンも登場していることから使用面積が大幅に増加しているものと思われ、日本の稲作をドローンが確実に変えようとしている。
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