「まかれた種」と「聞く力」【小松泰信・地方の眼力】2022年7月13日
7月10日、私淑する農民作家の山下惣一氏が逝去された。直木賞候補作「減反神社」を読んで以降、軽快な筆致でつづられた農ある世界で生き抜くことの喜怒哀楽や農政への鋭い指摘に、多くのことを学びました。ありがとうございました。
二人でまいた種。刈るのはあなたです
参院選も最終盤となった7月8日(金)、「週刊文春」(7月14日号)を購入した。お目当ては、あの森友学園への「国有地巨額値引き売却」に、安倍晋三・昭恵夫妻が深く関わっていたことを示す新たな物証(取材・文は相澤冬樹氏)。
注目すべきそのひとつが「瑞穂の國記念小學院」の設計図。そこには、校舎三階と一階に「名誉校長室」の存在が記されている。籠池泰典氏(かごいけ・やすのり、学校法人森友学園理事長)は「昭恵さんは本校の終身名誉校長という位置付けでしたから、それにふさわしい部屋を用意した」と、語っている。二部屋も設けた理由は、「三階が本来の名誉校長室...。そこは子どもたちから遠い。...子どもたちが来やすい場所にも名誉校長室を設けたんです」とのこと。
これらのことは、単なる名誉職としての肩書だけではなく、「現場での実態を伴っていた」ことを証明している。
「私や妻が関係していたということになれば総理大臣も国会議員も辞める」と国会で言い放った安倍晋三氏に、「かつての自らの答弁を踏まえ国民に説明する義務がある」と相澤氏は迫る。キツい文春砲だ、と思った時には、実弾が炸裂していた。
安倍氏本人から真実を聞く機会は永遠に失われたが、当事者中の当事者がいる。安倍昭恵さんだ。この記事が事実無根のもの、あるいは籠池氏が勝手に二部屋用意したとすれば、ご夫妻の名誉は著しく毀損されたことになる。ぜひ、公の場で真偽のほどを語っていただきたい。
昭恵さんは、喪主として「(安倍氏が)種をいっぱいまいた」とあいさつした。本当に、いっぱいまかはりましたで!
森友問題は二人でまいた種。ぜひ、早急にお刈り下さい。
農ある世界にもまき散らかされた数々の悪種
日本農業新聞(7月9日付)は、2面で「安倍農政」の歩みを整理している。
いわゆる12年体制と呼ばれる2012年12月から始まる第2次安倍政権は、〝成長〟を掲げて農政の大転換を図った。
13年3月にはTPP交渉への参加を表明する。第46回衆院選で、下野していた自民党は「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」というポスターを農村部に大量に貼ったにもかかわらず。16年4月7日の衆院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会では、「TPP断固反対と言ったことは一回も、ただの一回もございません」と安倍氏が答弁したことに、多くの批判が上がった。すでに、息を吐くようにウソをついている。
その後、「生産現場の主張とは必ずしも一致しない政府の規制改革会議(現・規制改革推進会議)などの提言を受け、〝官邸主導〟の改革を推進」することになる。
14年5月14日に「規制改革会議が抜本的な『農協改革』を提起」。16年4月には、准組合員への事業利用規制を脅しに使い、JA全中の一般社団法人化など中央会制度の廃止を盛り込んだ改正農協法が施行される。これを契機に、官邸と、その意のままに動く農水省の顔色をうかがうJAグループと化す。まさに、「触らぬ神に祟り無し」状態。
また、国家戦略特区における企業の農地取得の解禁や、主要農作物種子法の廃止など、農業の土台と根幹に関わる領域をビジネスの世界に広く解放することとなる。
その間、食料自給率は40%を下回り、改善の兆しすら見られない。
農業、農村、そしてJAという「農ある世界」にまき散らかされた数々の種がもたらす花や実が、われわれの農や食をより良きものにしてくれるとは到底思えない。
農水省もJAグループも、情緒的にならずきっちりと検証し、「悪種が良種を駆逐」せぬよう、早急に対応すべきである。
岸田首相に強いリーダーシップを求めてはいるが
日本農業新聞(7月11日付)の論説は、参院選で維新が躍進したことから、「維新は企業の農業参入の推進に重点を置くだけに今後、企業の農地取得へ一層の規制緩和を求めてくる可能性は高い」と警戒する。
そして、「官邸主導の安倍、菅政権下の規制改革で農業農村は疲弊が進んだ。『攻めの農政』『競争力強化』の果てに個人農家の離農は相次ぎ、もはや地域は持たない」と、指弾する。
岸田首相が、「多面的機能の維持や食料安全保障の観点から、中小・家族農業や中山間地農業の支援を強化」「米をはじめ国産農畜産物の需給・価格の安定など、農業者の所得向上に向けて政策を総動員」と訴えて、総裁選を勝ち抜いたことを示し、公約実現に向けた指導力の発揮を求めている。
加えて、「食料自給率の向上や食料安保の確立に向けた各党の公約に大差はない」として、党派を超えて議論を深め、海外依存からの脱却に向けた「多様な農業を大切にする農政」「持続可能な農業への立て直し」を提起する。
さらに翌12日付の同紙の論説も、「農政課題は山積する。与党は数におごることなく、超党派で食料・農業危機の対応に当たるべきだ」と発破をかける。
「中長期的な課題は、食料安全保障の強化だ」として、各党の認識に大きな違いがないことから、「この問題は国家戦略として超党派で取り組むべきだ」として、首相に強いリーダーシップを求めている。
地方の「声なき声」を拾い集めるのは誰だ
同紙同日付に柴山桂太氏(京都大学大学院准教授)は、参院選で野党が自滅したという感想を示し、32の1人区で28議席を自民が獲得し圧勝した点に注目する。その多くが地方であることから、「野党は地方で支持を失った」と結論づける。
ただし自民党は、今や都市部のサラリーマン層を支持基盤とする都市型の保守政党となったとして、野党の党勢立て直しに際しては、特に地方の「声なき声」を拾い集めよという。なぜなら、地方には「現在の自民党の政策が事実上の地方切り捨てではないかと危機感を募らせる人」が多数存在するから。
確かに、当コラムでも紹介した、選挙前の日本農業新聞農政モニター調査において、「岸田農政に約6割が不満」を示していた。
なぜ農業者の声が聞こえないのか。「聞く力」なき野党には猛省を促したい。
「地方の眼力」なめんなよ
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