(290)「近い未来」と「遠い未来」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年7月15日
長年、世界で最も安全と考えられ、近年ですら世界中の多くの国々より安全と思われてきた日本で、去る7月8日、白昼大勢の人々の目の前で安倍元首相が撃たれ、亡くなられたことは、世界中に大きな衝撃を与えました。一人の国民として、謹んでお悔やみ申し上げます。その上で少し考えてみました。
我々は、「近い未来」と「遠い未来」、この2つのうちどちらを正確に判断できるのだろうか。感覚的には前者の方が明らかに容易と思われる。何よりも「遠い未来」は常識的には不確実性が多すぎるからだ。
例えば、今週の週末の予定の方が、5年先の同じ週末の予定より身近であり予定が立てやすい。今週末は家の掃除とか、出かけようとかが考えやすいが、5年先の同じ月の週末に何をしようかなどと考える人は少ない、というかほとんどいないであろう。時間的に遠くなるほどリアリティが無くなり不確実性が増加するからだ。
だが、もしかするとこれは大きな間違いかもしれない。現実の世の中では「一寸先は闇」であり、むしろ数年先あるいは数十年先の方が確実に予想できることの方が多い。これは、日々の仕事や休暇、そして人生そのものについても抑えておくべき実は重要なポイントだ。試しに今年の夏休みの予定が取れない人は、空いているカレンダーに来年の夏休みの日程を確保してみると良い。こちらは意外と簡単である。問題は実行するかどうかではあるが。
直近の例で言えば、3年前には人口1,000万人以上の都市が感染症を防ぐために完全に外部と遮断されるなどということを想像する人はパニック映画の世界を除けば極めて少なかった。そもそも「ロックダウン」という言葉すら普及していなかったと理解している。
一部の人達は、何年も前から感染症によるパンデミックが発生する可能性を唱えていたようだが、多くの人にとってはあくまで「遠い未来」の話として受け止められていたのであり、ここまで現実の話ではなかった。
同じことは、ロシアによるウクライナ侵攻と、その後の様々な生活への影響にも言えよう。それまでの日常生活と比較すれば、簡単に言えば「突然」感満載の変化が至るところで現実に起きている。
だが、いくつかの報道や書籍が指摘しているように、冷戦終了後に時間をかけてNATO(北大西洋条約機構)への加盟国申請を希望する国が着々と増えてきたという流れや、2014年のクリミア危機など、大局的に見れば氷河は着実に移動していたということだ。
多くの人々はそれをあくまで平和な日常からやや「距離のある」対岸の火事のようなものとして希薄な現実感として捉えていたのではないかと思う。
ところで、21世紀初頭のグローバル化と同じように世界経済が大きく発展していた時期が100年ほど前にも存在した。だが、人々がその時代を楽しんだのはわずかな期間である。その後の歴史は第一次世界大戦とインフルエンザの大流行、経済の世界的縮小などが頭に浮かぶ。日本では日露戦争終結から大正デモクラシーへの流れ、そして関東大震災から昭和初期の大変な時期への流れである。
先日、ある同僚とどうも現在はかつての戦間期のような特徴が出始めているみたいだとの意見交換をした。当時とは明らかに環境が異なるが、人間の考えや行動には意外と共通点があるのかもしれない。
歴史は多くを教えてくれるが、今を生きる人は「過去は過去」と割り切り、「時代が違う」と今日明日にこだわる。だが、少し長い目で見れば、我々は意外と同じようなことを繰り返している。身に纏うモノや使うツールが異なるため当時とは違うと誤解している可能性が高い。そうであれば、目の前のディテールに惑わされない少し「遠い未来」の方が確実に予想できるのではないか。
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20歳の若者も20年経てば40歳、筆者も20年後に生きていれば80歳超えです。その時見える世界はどうなっているのでしょうか。
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