【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】業界が乳価引上げに動いた~次は政府も2022年7月21日
北海道でも十勝の大規模層などを中心に倒産の連鎖の危機が伝えられ、熊本では9割の酪農家が赤字で、あと数カ月もつかどうか、との切実な声が筆者にも届き、全国酪農家の悲鳴が高まる中、政府は動かないが、業界が動いた。消費者には価格転嫁を理解してほしい。酪農家さん、メーカーさん、頑張って下さい。
【消費者にお願い】
飼料、肥料、燃料などの資材暴騰下、全国酪農家の切実な声を受けて取引乳価の引上げ交渉が始まり、7月20日関東で酪農団体と乳業メーカーとの飲用乳価10円の引上げに合意したと報道された。例えば、中国地方では、乳価114円/kgに対して生産コスト約127円と言われ、平均的には、約13円の赤字との見方がある。約13円の赤字というのは北海道でも同様のようである。しかし、これではまったく資材価格の値上がり分をカバーできないとの声もある。
小売価格も上昇する可能性があるが、消費者には価格転嫁を理解してほしい。成長ホルモンなどの心配がない国産牛乳は価格以上の価値、命の源である。国内酪農家は希望の光である。その他の畜産物、防カビ剤などの心配がない国産米麦についても同様である。
【政府の役割】
しかし、消費者も所得が減り続けていて苦しい。一方、生産者にとっては10円上がっても、まだ赤字である。ここは政策の出番だ。農家に必要な価格と消費者が買える価格とのギャップ(の一部)を農家(or消費者)に補填して両者を助けるのが政治・行政の役割である。かりに、平均13円の赤字だとすれば、取引乳価は10円引上げられるから、政府が酪農家に少なくとも3円補填する-実際にはもっと上乗せが必要と思われるが-といった対応が必要ではないだろうか。
2008年の「エサ危機」には、筆者が農政審議会・畜産部会長で、まず、加工原料乳補給金の史上初の年度途中の期中改定と飲用乳価への緊急補填(2回にわけて計3円程度)でまず政策が動き、それをシグナルに価格転嫁への理解醸成を進めて取引乳価が15円引き上げられた。今回は順番が逆でも、政治も役割を果してほしい。
今回の合意について、昨夜のニュース用にこのようなコメントを準備してスタンバイしていたのに事情が変わって出演が見送られたのは残念だったが、とにかく、酪農家さん、今を凌いで下さい。消費者は自身の命を守るためにも価格転嫁をご理解下さい。
(関連記事)
・乳価10円上げで妥結 関東生乳販連(22.7.21)
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