K氏と協同組合のこれからを考える【小松泰信・地方の眼力】2022年7月27日
4月16日、倉敷市で行われた「岡山登山者9条の会・総会」で講演をした。すべてが済んでの帰り際、「生協など協同組合は、今後どうなりますか? 発展する、衰退する、分からない、この三択でお答えください」との質問があった。
「協同組合は、緩やかだが発展する」って、本当?
質問の主であるK氏より、手紙(7月13日付)をいただいた。
返事を書きそびれていたが、協同組合の本質に迫る、深くて、普遍的な問いであるため、この紙面で私の考えを書き記し、読者の方にも共有していただくことにした。なお、K氏に関わる部分は、可能な限り忠実な再現を試みたが、若干改変していることをご了解いただきたい。
K氏 私は、若い頃に医療生協に就職し、定年まで勤めあげて19年経過しましたが、退職後も生協の今後について気になっていました。先生は即座に、緩やかだが発展するだろうと断言されました。その理論的根拠を教えてください。生産分野の協同組合でも、消費分野の協同組合でも同じとお考えでしょうか。
例えば、日本における生産の分野では代表格の農協はどうでしょう。農業の衰退に伴って、見た目には以前の活気、輝きが失われつつあると感じられます(実際はよくわかりませんが・・)。
また、消費の分野では、消費生協もかつての勢いが感じられません。ヨーロッパなど世界的にはどうでしょうか。
次に私が働いていた医療福祉生協も、同業種の団体との差別化が希薄になりつつあると感じています。
小松 返事を書きそびれていた最大の理由が、この質問への回答の難しさです。本音を言えば、はっきりしたことは分からない。しかし簡単に「分からない」とは言いたくない。K氏も書かれている協同組合の状況が私の脳裏に浮かび、「衰退する」可能性も否定できない。ただ、眼前にある協同組合の状況は「発展」してはいないが、廃れているわけでもない。
資本主義が行き詰まり、より自由な企業活動を目指し、各種規制の緩和を求める新自由主義のもと、経済格差は確実に拡大しています。多くの人々を取り巻く社会的、経済的状況は、悪くはなっても、良くはならない。そのような状況において、人々の協同活動を機軸とした協同組合の存在意義は高まるに違いない、と考えました。期待を込めて、「緩やかだが発展する」と答えた次第です。恥ずかしながら、理論的根拠として誇れるものはありません。
「新たな探究の時代」に入るべき協同組合
K氏 協同組合の特質として、人々が協力協同することは生存にとって、またより良い社会を築くうえでも普遍的な価値があると考えられ、協同組合運動の理念の原点だと思います。しかし近年、運動が停滞気味で、事業面でも競争の厳しい環境下で苦闘しているのが現状だろうと勝手な推測をしています。突破するために何が必要か、新たな探究の時代にあるのではないでしょうか。
小松 ご指摘の通り、現状を打開し、協同組合の新たな時代を拓くために、何が求められているかを探究すべき時です。組合員なき協同組合は存在しません。基本は、K氏が指摘されている「人々が協力協同する、協同組合の特質」を組合員に認識してもらい、当事者意識を持った組合員が多数を占める協同組合を創りあげることです。
JA役職員が、何の疑問も感じず、組合員を「お客様」と呼ぶ時ほど、興ざめな時はありません。
週に3、4回ほど生協に行くのですが、ここにいる組合員のうち、どれほどが当事者意識を持っているのかと、いつも気になっています。
「政治的中立の原則」を疑え
K氏 現役時代から、今もなお疑問に思う事は、「政治的中立の原則」についてです。医療の場合、良い医療を追求し、医療要求を実現しようとすれば、国の医療政策とぶつかることが度々あります。こうした場合、政治的中立では、要求が実現できず、運動、組織、事業の全般に停滞をもたらす要因になり得ると考えられます。
現役の頃、厚生省から政治的中立を遵守せよという通知があり、それに従って、運動が萎縮したように思いました。そもそも政治的中立はなんぞや、階級社会の中であり得るのかという疑問にぶつかります。もともと、政治的立場の違いを超えて、運動を発展させる原則と理解していますが、一方で要求実現運動の壁となることもしばしば経験します。この原則は、発展の側面と阻害する側面を持ち合わせていると言わざるを得ません。
この阻害の呪縛を乗り越える新たな運動の展開が求められていると思います。特に、医療・福祉など国の政策と直結して、影響を受ける医療福祉生協では、より掘り下げた検討が必要かと思います。特に、専従職員には、その意識がなければ、発展は望めないのでないか、とさえ感じています。
小松 医療福祉生協の実情には疎いのですが、一般論として私も、「政治的中立の原則」には疑問を持っています。少なくとも、抑圧される側、搾取される側、貧困にあえぐ人々がその克服に立ち上がるとき、政治的に中立であることを意識するでしょうか。まったく意識しないはずです。それを求めてくるのは、体制側、権力側です。それに従えば、運動が萎縮し、頓挫するのは当然です。相手は運動を抑えんがために言ってくるわけですから。思想信条が異なる方々の集まりを前提としたとき、一党一派を押しつけるのは問題ですが、運動において中立の原則を過度に意識する必要はないと思います。
未来社会と協同組合
K氏は、「最後に、未来社会における協同組合の果たす役割、あるいはもう少し直近の未来社会を目指す過程における協同組合の役割についてです。協同組合は将来どうなるんだろうかという関心は、未来社会とどう繋がっていくのか、という問いでもあります。この探究は私の人生最後の生きがいとご理解ください」として、手紙を結んでいます。
この問いは、協同組合の研究に関わる者の多くが意識している、しかし明確な回答が見出し得ていない問いでしょう。
K氏からいただいた、大きく重たい宿題の答えを見つけるために、これからも眼力を磨く決意をした次第です。
「地方の眼力」なめんなよ
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