4年産新米、市中価格は西が下げで東が値上り予想【熊野孝文・米マーケット情報】2022年8月9日
盆休明け8月19日に千葉市で恒例の「新米取引会」が開催される。この取引会での成約価格が4年産米のスタート時点での市中価格の目安になるが、現在(8月8日)時点までの4年産米の価格動向は、西日本の早場米が昨年同期の価格より安値で始まったのに対して、関東の早期米は昨年同期の価格より500円から1000円の高値で始まると予測されている。その要因の一つに農協系統の概算金設定が昨年とは真逆の方向に動いていることがあげられる。
新米のスタート価格が昨年の同時期に比べ「西市場安、東市場高」で始まると予想される一つの要因は、地場県産米の在庫状況が影響している。
農水省が毎月公表している産地別民間在庫の状況に直近の5月末現在の数量が出ている。それによると九州各県の在庫は昨年同月に比べ大幅に多い。具体的には福岡77%増、佐賀55.5%増、長崎89.3%増、熊本16.7%増、大分99.8%増、宮崎103.8%増、鹿児島35.5%増になっている。全国平均の在庫は2.6%増なので九州地区の在庫が際立って多いことが分かる。早場米産地である宮崎が昨年同期より2倍もの在庫を抱えていること自体が異常とも言える。新米宮崎コシヒカリの販売がスタートしたにも関わらず、3年産米も消化しなければならない状況が続いていることを意味している。それだけ九州地区の3年産米の生産量が多かったのだろうと思われるかもしれないが、そんなことはない。
令和3年産米の九州地区の水稲作付面積は14万9000ha、作況99で生産量は72万3800tで、この数量は北陸地区の生産量より少ない。過去を振り返れば平成20年当時九州地区の水稲作付面積は19万0600haであった。それよりも令和3年産は5万haも減っているのである。にもかかわらずなぜこれほどまでに在庫が多いのか?最大の原因は他県のコメの流入量が多かったことにある。特に関東・福島県産の流入量が増えたことが地場産米の在庫が膨らんだ原因になっている。
これらの産地から九州にコメが運ばれたのは何よりもその価格が安かったからである。
九州の代表的な銘柄米の3年産平均価格(出回りから今年5月まで)を見ると福岡夢つくし1万4743円、元気づくし1万4595円、佐賀さがびより1万4061円、熊本ヒノヒカリ1万317円、宮崎コシヒカリ1万5471円などとなっている。同時期の福島コシヒカリ(中通り)は1万1051円、茨城コシヒカリは1万1436円、茨城あきたこまち1万1240円、千葉コシヒカリ1万1421円で九州各産地銘柄米より大幅に安い。
昨年の同時期の新米出回り当時、九州の業者から「関東の新米はそんなに安いの!」と言う声を良く聞いた。今でもそうしたイメージが定着しているためか、九州地区の業者はコシヒカリやあきたこまちといった全国銘柄であれば関東の業者に引き合いを入れる。実際、既に8月中渡し条件で成約している4年産もある。
分かり易く言うと地域間のコメの価格差によって移出入が活発に行われた結果、現在のような在庫状況になっていると言える。
このことは全国的なコメの需給を無視して自県産米だけが高値になるといった「モンロー主義」は通用しないことを意味している。これを修正すべきと言う動きの一つが農協系統の概算金で、九州の早場米の概算金は引き下げられる一方で、千葉は昨年同期に比べ1000円高の概算金を打ち出した。千葉は系統集荷率をアップさせるために買い取り価格に近い概算金を打ち出したという側面があるものの、概算金アップを打ち出したことは大きなインパクトがあり、この価格を目安に市中の取引価格が形成されるものと予想される。
北陸・東北・北海道といった大産地の概算金が決まるのはこれからだが、産地側としては生産資材が大幅に値上がりしていることから概算金を引き上げざるを得ないというのが一般的な見方で、さらに流通業者も「上げ賛成」の立場にある。
すでにコメ卸団体の全米販は原料米以外の物流費や包材費などあらゆるものが値上がりしていることからスーパーマーケット協会等に団体名で精米価格の値上げを求めている。卸の中には「米価が上がらないとコメを作ってもらえなくなってしまう」という経営者もおり、新米の納入価格値上げを量販店等に求めて行く姿勢を鮮明にしている。
流通業者サイドとしては、3年産米の在庫を優先して消化しなければならず、そのためには絶対に新古逆ザヤの価格が形成されることだけは避けなくてはならないと言う思いがある。これが"上げ賛成"の最大の要因だが、それが通るか否かは消費者次第。
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