(294)「サマー・リーディング」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年8月12日
必要な情報は携帯で検索しネットで概要を斜め読みし、残りは知っていると思われる人に聞くことが多くなりつつあります。現代人は活字の書物をじっくり読む時間、意外と少ないのかもしれません。
8月上旬からお盆にかけての時期は意外と読書に向いている。暑くて集中できないという方も多いだろうが、場所と時間をうまく選べば結構快適な読書ができる。
携帯のニュースやブログを読む毎日から離れ、日本や世界の文学の中でタイトルや著者名、あらすじなどは知っていても実際には読んだことのない本を2~3冊読むのは1年の中でもこの時期が最も多い。
高校・大学受験の知識のひとつとして、要領よく内容がまとめられているガイド(昔はアンチョコと言った)もあるが、やはり原典を読むに限るのは、そうしたまとめには往々にして作者がかなりこだわったと考えられる細部の描写が抜けているからだ。私自身、こうしたコラムですら細かい表現にはそれなりに気を使う。常に物事を俯瞰することは重要だが、それは(恐らくだが)自分が得意な分野において細部は知っていて当然だからに過ぎない。細部だけを理解することと、あわせて全体を理解することとは雲泥の差があるし、場合によっては全く逆の結論や印象を得ることにもなる。
さて、8月上旬は職場の大学では前期試験の時期であり、教員には試験結果の採点作業が始まるまでの間に瞬間的に訪れる翌週の授業準備をしなくてもよいささやかな時間が取れるタイミングである。
こうした時間に以前から気にしていた本が読めれば良いが、世の中はそれほど甘くない。狙い撃ちしたように会議や研修その他突発的な事象への対応が続く。それでも移動の時間などを利用して、長年気にしていた薄い文庫本を何冊か読むと、今更ながら思うことが多い。
そういえば、米国に駐在していた頃、現地では6月に年度が終わると子供達は一斉に長い夏休みに入った。町には「サマー・リーディング」という言葉が溢れていた。学校では新学年が始まる9月までに読んでおいた方が良い本をリスト化して配布してくれたし、町の本屋や隣接したカフェに行くと、「サマー・リーディング」の対象本の大きなポスターが何枚も貼られていた。知らなかった書籍のタイトルは不思議と強く記憶に残る。
子供達は既にこうした時期を遥か昔に通り過ぎたが、その頃記憶に焼き付いた書籍のタイトルは意外と消えない。米国から帰国して10年目くらいからであろうか。夏のこの時期になると、記憶に残る書籍の中で未読のものを少しずつ読み始めた。全く読まない年もある。課題としての読書感想文を書く訳ではないので気楽だが、読んでいて何度か細部の描写が強烈に浮かび上がる経験をしたことがある。それは何気ない町の風景描写であったり、年中行事や人々の会話であったりと様々だ。忘れていたこと、心の底にしまい込んでいたものをほじくり返されるような感覚である。
別に海外文学に限ったことではない。ある時期、全国の城跡を制覇するオンラインゲームにハマり、休日のたびに出歩いていたことがある。目的地に建てられた城や館の由来を読み、関連した小説を見つけ出して読む...、そして、由来と城主の生きざまを知ってから再度訪問すると何もない場所が語りかけてくるような気になるから不思議なものだ。
関西に行く機会が集中した時期には、何とか時間を作り小さな城跡や館跡を歩くと共に、その城主が登場する小説を探し出して読み、また訪問する...ことを繰り返した。コロナ以来、こうした時間が取れないので今は読むだけである。
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サマー・リーディングは結構な充電期間です。お盆の一週間、本来は休みのはずなのに、実は行事が一杯という方も多いと思います。移動時間、細切れ時間を利用して、読み残した本を一冊、いかがでしょうか。
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