【浅野純次・読書の楽しみ】第77回2022年8月29日
◎共同通信社取材班 『日本の知、どこへ』(日本評論社、1980円)
世界水準からみた日本の科学研究は後退の一途をたどっているようです。企業のいわゆる中央研究所も昔日の面影はなくなっていますが、本書は主に大学の科学研究が危機的状況になっていることを詳細に探っています。
科学研究には莫大なおカネが必要なのに、国の財政が厳しくなるのと軌を一にして研究予算は減る一方です。文科省も問題ですが、科学研究の本質がわかっていない(と思える)財務省の幹部などが、研究予算を削ってしたり顔な風景も描かれてぞっとします。
もちろん一番問題なのは漂流を続ける政策です。予算を減らしても競争さえさせれば成果は生まれるという、政治家と官僚の大間違いをノーベル賞受賞の学者や大学の学長たちがいくら説明しても、政治家や官僚は耳を傾けようとしません。この本はそんな恐ろしい話にあふれています。
共同通信の記者たちが2年近く配信し続けた大型企画をまとめたものだけに、日本の科学研究をめぐる現実が散りばめられていて、唖然とさせられることが多いでしょう。
新自由主義的に日本の科学研究をひねくり回した間違いを修正して、状況を一変させないといけませんが、それも、もはや待ったなし。貴重な現地報告と問題提起の書です。
◎マルコム・グラッドウェル 『ボマーマフィアと東京大空襲』(光文社、1870円)
ハンセル准将はともかくルメイ少将はご存じの方が少なくないでしょう。そう、10万人の死者行方不明者を出した東京大空襲の指揮官で、その後も全国的な無差別爆撃を繰り広げました。そして佐藤内閣から旭日大綬章を受勲した人物です。
本書はこの2人を主人公に、米空軍による日本爆撃の帰すうを見事に描いています。ハンセルは高空から軍事目標を精密爆撃することをめざしました。
そのためには正確な爆撃照準器が必要で、その開発物語も面白い。ただしハンセルの狙いは、吹き荒れる偏西風と雲海のため散々な結果に終わります。
ハンセル更迭後に登場したルメイは、夜間、超低空で市街地上空にB29を侵入させ無差別攻撃しますが、延焼力、殺傷力の高いナパーム弾(焼夷弾)を使って大成功を収めます。
優れた軍人はどちらか。戦争なのだから民間人も初めから殺傷の目標とされて当然なのか。そもそも戦争とは。ウクライナ戦争のさなか、私たちに重い問いを投げかけるドキュメンタリーの傑作です。
◎垣谷美雨 『姑の遺品整理は、迷惑です』(双葉文庫、715円)
今やほとんどの人にとって、親の遺品整理は大問題でしょう。コメディ小説ではあっても、読むほどに身につまされます。
思い出もたくさん詰まっているとはいえ、愛憎半ばする遺品の山を片付けようと、主人公の中年女性はときに仕事を休み、電車に揺られて郊外の団地まで何度も何度も出かけていきます。
業者に頼むと高くつくからと自力で取り組もうとしたのが間違いのもとで、次から次へと現れてくる物、もの、モノ。姑の意外な顔も見えてきて...。
日用品だけならともかく、大きくて重い電化製品や家具まで自分の手で市の粗大ゴミ出しで片付けようとしたのは、正しい判断だったのか。
わが身にも参考になる点は多いとはいえ、個人的感想ではいかんせんお話が少々長すぎたきらいが。何せ次から次とのしかかってくるのはごみの山ですから、読み進むにつれてこちらも疲れてきてしまった...のかも。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2024年7月16日
-
【注意報】イネカメムシ 県内全域で多発のおそれ 鳥取県2024年7月16日
-
30年目を迎えたパルシステムの予約登録米【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月16日
-
JA全農、ジェトロ、JFOODOが連携協定 日本産農畜産物の輸出拡大を推進2024年7月16日
-
「雨にも負けず塩にも負けず」環境変動に強いイネを開発 島根大学・赤間一仁教授インタビュー2024年7月16日
-
藤原紀香がMC 新番組「紀香とゆる飲み」YouTubeで配信開始 JAタウン2024年7月16日
-
身の回りの国産大豆商品に注目「国産大豆商品発見コンクール」開催 JA全農2024年7月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」鹿児島県で黒酢料理を堪能 JAタウン2024年7月16日
-
【役員人事】ジェイエイフーズおおいた(6月25日付)2024年7月16日
-
【人事異動】ジェイエイフーズおおいた(4月1日付)2024年7月16日
-
日清食品とJA全農「サプライチェーンイノベーション大賞」で優秀賞2024年7月16日
-
自然派Style ミルクの味わいがひろがる「にくきゅうアイスバー」新登場 コープ自然派2024年7月16日
-
熊本県にコメリパワー「山鹿店」28日に新規開店2024年7月16日
-
「いわて農業未来プロジェクト」岩手県産ブランドキャベツ「いわて春みどり」を支援開始2024年7月16日
-
北海道で農業×アルバイト×観光「農WORK(ノウワク)トリップ」開設2024年7月16日
-
水田用除草ロボット「SV01-2025」受注開始 ソルトフラッツ2024年7月16日
-
元気な地域づくりを目指す団体を資金面で応援 助成総額400万円 パルシステム神奈川2024年7月16日
-
環境と未来を学べる体験型イベント 小平と池袋で開催 生活クラブ2024年7月16日
-
ポーランドからの家きん肉等の一時輸入停止を解除 農水省2024年7月16日
-
JAタウンのショップ「ホクレン」北海道産メロンが当たる「野菜BOX」発売2024年7月16日