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「エンパワーメント」を日常の職場で活かそう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年8月30日

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ニューヨークの小さな管弦楽団の偉大さ実績を学ぶ

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次

8年前、盲目の天才ピアニストの辻井伸行氏のコンサートが東京で開催されました。感動的なステージでしたが、辻井氏をソリストに抜擢したのが、ニューヨークのカーネギーホールをベースに活動するオルフェウス室内管弦楽団です。

この管弦楽団は、グラミー賞を複数回獲得し、世界中のクラシック・ファンを魅了し続けています。小さなオーケストラです。26人という小編成です(最初は27人でしたが・・・)。一般的なオーケストラは50人編成です。

人数が半数だからか、一つひとつの楽器の繊細な音律、存在感が素晴らしく、オーケストラとしてのハーモニーの質の高さを感得します。子どもには、このオルフェウスの音楽を聴かせろ、そんな雑誌の記事を鵜呑みして、幼稚園の子どもたちに、しばらくの間、毎朝、このオーケストラの音楽を流し続けたことを思い出します。

オルフェウスが注目されたのは、編成がほぼ半分で素晴らしい演奏を行うことと、もう一点は、「指揮者のいない」ことでした。しかも、高い評価はハーモニーとともに、一人ひとりの技術の高さを実現しているというのです。指揮者を置かずに、メンバーの話し合いによって音楽を完成させる、世界でも極めて珍しいオーケストラで、その演奏の完成度の高さは"オルフェウスの奇跡"と賞賛されます。

なぜ、それができるのか、興味を持ちました。世界中を演奏旅行するオルフェウスの公演日程を調べているうちに、指揮者がいないことと、オーケストレーションへの興味が大きくなりました。オーケストレーションとは、組織運営上の方針、ソフトウェアや仕組み、スタッフの働き、管理など、総合的に高い機能を発揮する組織論です。

しかも、楽団としての経営組織にもオーナーがいない、楽団員の話合いをもとに演奏会の予定や演奏曲なども決めていく、全員参加型だというのです。そして、刺激的だったのは、ハーバード大学の研究者がオルフェウスを取り上げ、ビジネスの側面から、この組織を研究対象とし、さまざまな論稿を発表したからです。

職場で意識して取り組みたい「エンパワーメント」

1990年代末からは、ハーバード・ビジネスなどにおいて、このオーケストラをモデルにした組織論、リーダーシップ理論、チーム理論等々の議論が盛んに行われました。かのドラッカー大先生もオルフェウスを論じています。論文以外にも、リハーサル風景を企業のトップマネジメントが観察し、実際のマネジメントへの適用を議論するというような場や研修映像なども作成されました。

指揮者を頂点とした階層組織がオーケストラなのに、"独裁者"のような指揮者がいないで、数十年にわたって世界的に最高水準の演奏を続け、聴衆のニーズに応え、しかも、個々の才能や意欲、献身、創造性などを引き出しているのです。2002年に翻訳が出版された『オルフェウス プロセス』には、多くのヒントがありました。

単純な話として、JAのような「人の組織」であれば、このような実験的な組織変革への手段として、オルフェウスの取組みを活かすことができるのではないか、と考えました。そして、すべてはできないまでも、代表的な特徴点を取り上げ、活用できるところから、コンサルや研修のなかで取り上げるようにしました。

オルフェウスの特徴は、①固定的なリーダーを持たない(みんながリーダーの意)、②メンバーがフラットな関係(パートナーシップ)の組織であること、③メンバーはオーナーでもあり、オーナーシップの醸成、④目標を自由な議論によって完成させるチーム論、⑤自由闊達な論議を行うコミュニケーション風土、⑥議論を通じて、互いの才能、技術、意欲、献身、創造性を高めるエンパワーメントの実践、などがあげられます。

そして、ほぼ20年の時間を経て、現在の到達点は、①、③、④は諦めました。私の話を理想話のように受け取る役職員が多かったからです。

それでも、②は支店などの現場組織で、支店長の人間性によっては可能性あり、⑤も支店などの現場組織で15人以下の組織で、コツコツ続けること。終着点のないテーマなので、これも、支店長などマネジャーの意識と行動と、地道なミーティングなどの活動の継続です。

最後に、⑥のエンパワーメントは、JAの管理職や職員に受けが良く、その重要性の理解も早かったのです。20年間、私のすべてのテキストにエンパワーメントを取り上げ、強調し続けました。JAの職員間で活用し、お互いの良さや特徴を活かし合い、育て合うこと。本店・支店間でも、支所のダメなところを指摘するだけでなく、良さや強みを伸ばさせる本所の役割、上司・部下間でも、部下指導ではなく、コーチングを。

そして、職員と組合員間(顧客間)においても、組合員の前向きな経営意欲や生活行動を引き出すようなコミュニケーションを実践する、コーチングとからめて、JA職員の行動に結びつくような提案ができるまでになりました。

でも、実際は、まだまだです。他の競合先との差別化という点でも、エンパワーメントとコーチング、何としても、職員のコミュニケーション・スキルとして、身につけて欲しいと願っています。

オルフェウス管弦楽団は、創立1972年。今年で50周年です。何とか、このオーケストラの素晴らしさを活かしたいと思い続けています。

◇   ◇

 本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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