酪農バブルの終焉 高橋勇 北海道・JA浜中町参事【リレー談話室】2022年9月2日
補給金込みの全道プール乳価が、キロ当たり100円を超えたのが2017年の取引からです。この5年間は初妊牛や肉用子牛価格も空前の高値で推移し、酪農経営には今まで経験のない追い風が吹いていました。この追い風に乗って畜産クラスター事業等を活用し、各地にメガ、ギガと言われる巨大農場が稼働しました。その結果、北海道の生産量が400万トンを超え本州の基盤低下分を支える役割を担っていました。さらに乳製品はインバウンド需要に支えられ、順調に回っていました。
状況が一変したのは、新型コロナウイルスの発生です。2020年春からコロナによる人流抑制や学校閉鎖に伴う学乳停止、インバウンド需要の低迷などコロナの影響は、数えればきりがないほど挙げられます。2021年も引き続きコロナの嵐が吹き荒れ、牛乳乳製品の消費に大きく悪影響を及ぼし、乳製品、特に脱脂粉乳の過剰在庫を招くことになってしまいました。北海道知事が先頭に立ってPR活動を行うために牛乳を飲み干し、最終的には総理にも発言をいただき、官民挙げての消費拡大運動で不需要期の生乳廃棄を何とか回避しています。
酪農の生産現場では、過剰在庫処理に生産者拠出をキロ2円課せられ、手取りが減少しつつも、個別の生産抑制などは実施せず、全体で吸収することで何とか維持することとなっています。一方、皮肉にも2021年は夏の好天に恵まれ、北海道の酪農家は、自給飼料が良質であり、乳牛は例年より順調に乳を生産できる環境となってしまい、大きな矛盾を抱えた中で経営を強いられることになりました。
そこにロシアのウクライナ侵攻という蛮行が2月24日開始され、半年余りが過ぎましたが、この間酪農の生産環境が著しく低下しました。直接的には、次年度以降の肥料の高騰です。国内にはロシアから肥料原料の塩化カリが輸入されていますが、経済制裁でストップしています。間接的には穀倉地帯のウクライナからの穀物輸出が滞り、配合飼料の原料となるトウモロコシをはじめとする穀物の国際相場が高騰しています。
ロシアからの天然ガスを受け入れていたヨーロッパ諸国が、経済制裁で停止及び縮小で燃料の価格が高止まりしています。これらの影響を受け、一般酪農家のコストは百万円単位で負担増となります。メガやギガと言われる大規模農場では千万円単位となってしまいます。さらにこの夏から酪農家の収入源である肉用子牛価格が、大暴落を起こしています。資材高騰により肉牛農家の子牛導入意欲低下を招き、個体によっては10分の1の水準まで低下しています。この5年あまり副産物とはいえ、F1子牛一頭の価格が、サラリーマンの初任給より高い値段で取引される個体もあるほど、高値安定が続いていましたが、そのギャップは大きく対処の方法はありません。
こうなると天候にも見放され、この夏は降雨が多く、日照不足のため自給飼料の品質低下も否めません。良い飼料を確保し、高止まりする配合飼料の使用量を少しでも減少させようと考えていましたが、当てが外れてしまいました。
酪農バブルと言われて数年が経過し、以前は3Kの典型と言われた生産現場にやっと春が到来したと思っていましたが、また、我慢の時代に逆戻りです。
少しでも良好な酪農生産環境を取り戻すためには、すでに発生から2年半が過ぎましたが、コロナが早く落ち着いてほしいことと、ロシアのウクライナ侵攻を今すぐにでもやめていただきたい。この2点が切なる願いです。
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