子どもの貧困は許さない【小松泰信・地方の眼力】2022年9月7日
現在放送中のNHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』は実に面白い。
宅配ドライバーを通して描くコロナ禍
このドラマは、コロナ禍でキャバクラ勤めを失職したバツイチ・シングルマザーの主人公が、宅配ドライバーへと転職し、さまざまな問題にぶち当たりながら、たくましく生きていく姿を、多様な人間模様を絡ませて描く奮闘記。例えば、9月5、6日の放送は、かつての主人公と同様の仕事に就く母親に、養育放棄された不登校の女子中学生の話。「宅配ドライバーが子育てに口出すな」と言う母親と主人公のやり取りは見応えあり。
「令和3年子供の生活状況調査の分析報告書」の概要
内閣府は、「令和2年度 子供の生活状況調査」を実施した。調査期間は2021(令和3)年2月12日から3月8日で、全国の中学2年生及びその保護者5,000組が対象(有効回収数は 2,715組)。
分析に当たっては、調査対象世帯をその年収水準によって次の3層に分け、「経済資本」の違いを示している。
・「その他層」は、非貧困層とも言える層で、等価世帯収入の中央値である317.54万円以上。全体の50.2%。
・「貧困層」は、等価世帯収入の中央値の2分の1(158.77万円)未満。全体の12.9%。
・「準貧困層」は、「その他層」と「貧困層」の間に位置し、全体の36.9%。
そして、この経済資本格差が「人的資本(成績など)」「文化資本(生活習慣など)」「社会関係資本(相談相手など)」の獲得に及ぼす影響に注目する。
4つのメッセージと3つの支援
この調査結果を取りまとめた「令和3年子供の生活状況調査の分析報告書」で、小林盾氏(成蹊大学教授)は極めて興味深い総括をしている。その概要を以下のように整理する。
〈分析結果が伝える4つのメッセージ〉
(1)保護者の経済状況や婚姻状況によって、子供は学習・生活・心理面など広い範囲で深刻な影響を受ける。特に、もっとも収入水準の低い貧困層やひとり親世帯が、親子ともに多くの困難に直面している。たとえば、貧困層はその他層と比べると、成績の低い子供が 2.0 倍、授業で分からないことのある子供が 3.3 倍、学校以外で勉強しない子供が 4.7 倍多いが、大学進学希望者は 0.4 倍、生活に満足している子供は 0.8 倍に減った。
(2)保護者が経済的に困窮していたり、ひとり親であると、子供が人的資本、文化資本、社会関係資本を獲得するチャンスが低下する。その結果、子供も大人になったときに、十分な地位達成ができず、貧困に陥る可能性が高まる。このように、貧困の連鎖のリスクがエビデンスによって裏付けられた。
(3)こうした影響や連鎖リスクは、貧困層だけでなく、中低位の収入水準である「準貧困層」にも無視できないほど現れる。
(4)新型コロナウイルス感染症の影響を受け、こうした世帯での生活状況がさらに厳しくなっている可能性がある。
〈求められる3つの支援〉
(1)困窮世帯やひとり親世帯など、親(広くは保護者)に課題がある場合、学習・生活・心理面など多様な範囲で子供への支援が必要である。とりわけ貧困の連鎖を媒介する人的資本、文化資本、社会関係資本について、獲得チャンスが低下しないようにする。
(2)より根本的な解決のためには、保護者の経済状況を改善することが、求められる。困窮世帯やひとり親世帯にたいして、保護者への就労支援が不可欠である。場合によっては保護者の心理面へのケアや、さらなる教育を身につけられるよう、教育支援も求められているかもしれない。
(3)貧困層だけでなく、準貧困層もターゲットにした、グラデーションのある支援が必要である。
小林氏は支援策の最後を、「子供の貧困はけっして許さない――こうした強い信念を持って政策を策定していくことが、大人も子供も幸せで、ほんとうに豊かな社会を実現するために今求められているはずである」と、力強く締めくくっている。
「子どもの貧困問題」は沖縄知事選でもひとつの争点
「コロナ禍は子育て環境に大きな影響を及ぼしている。実態を把握し、適切な支援策を講じることが求められる」で始まるのは、沖縄タイムス(8月30日付)の社説。「多くの保護者が職を失ったり、収入減を余儀なくされた」ことを背景に、「小中学生がいる世帯を対象とした2021年度の県調査では、15年度以降初めて困窮世帯の割合が増え28.9%となった。前回18年度調査から3.9ポイント悪化した」とする。
さらに、「中学2年生がいる世帯のうち、コロナ前と比べて収入が『減った』とする割合は42.8%で、全国の32.5%に比べて10.3ポイント高かった。親の経済不安は子どもの生活不安に直結している。コロナ禍の影響で『食事を抜く回数が増えた』と回答した生徒は13.3%と、全国5.5%の2倍以上。『学校の授業が分からないことが増えた』のは39.1%で、全国26.4%より12.7ポイント高かった」ことを指摘し、「子育て世帯のダメージは他県に比べても深刻だ」と危機感を募らせる。
その背景として、「1人当たり県民所得の低さなど、復帰50年たっても変わらぬ経済の脆弱性」をあげる。故に、「子どもの健全な育ちの保障は社会の責務であることを考えれば、就学前からの切れ目のない支援策が必要だ」と訴える。
知事選の立候補者がそれぞれ子育てや教育施策を掲げているが、その財源の捻出方法についても具体的に示すことを求めている。
琉球新報(9月5日付)の社説は、「県民が求めるのは教育費への集中的な支援である。3氏には、従来にない発想で貧困を断ち切る施策を展開してもらいたい」と訴える。
そして、「資源の乏しい沖縄で、未来へ希望を託せるのは人材である。本年度から始まった第6次沖縄振興計画で重視する『ソフトパワー』の育成にもつながる。教育を含めた子ども予算を倍増するなど大胆な発想を新知事に求める」とする。
さらに、「子どもの貧困は親の貧困でもあるといわれる。経済的な事情により、子どもから進学や就学の機会が奪われることがあってはならない。そのためにも子育て世代が安心できる就労環境を整備しなければならない。非正規から正規雇用への転換、全国最下位とされる県民所得の向上など構造的な課題にも切り込む施策が求められる」とする。
「子どもの貧困問題」は日本中の問題。この問題の解消なくして、豊かな社会は築けない。
「地方の眼力」なめんなよ
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