硬質小麦の品種開発の進展と北海道の体験【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第213回2022年9月8日
前々回、軟質小麦・硬質小麦という言葉を使ったが、これは小麦をその粒の硬さによって分けたもので、もっとも硬いのが硬質、軟らかいのが軟質、その中間にあるのが中間質小麦と呼ばれている。この小麦の硬さはその蛋白含有量に比例しており、軟質小麦は蛋白が少なく、硬質小麦は多く、中間質小麦はその中間である。
ご存じのように、この蛋白の少ない軟質小麦でつくられた粉は薄力粉(はくりきこ)と呼ばれ、天ぷら粉やお菓子などに用いられる。次に中間質小麦であるが、この粉は中力粉(ちゆうりきこ)と呼ばれ、うどん、乾麺、お好み焼きなどに用いられる。蛋白含量のもっとも多い硬質小麦でつくられた粉は強力粉(きようりきこ)と呼ばれ、パンや中華そばの原料となる。
そうなると、わが国の小麦ではパンや中華麺がつくれないことになる。硬質・中間質小麦の栽培が容易ではないからである。とくに硬質小麦は難しい。
そこで必要となるのが、日本に適する硬質小麦の品種とその栽培技術の開発である。また中間質小麦の製パンの技術を開発することも必要となる。
同時に、わが国で栽培の容易な中間質、軟質小麦にかかわる技術をさらに高め、その生産量をさらに増やして、うどんや素麺などを国産小麦粉でつくれるようにすることである。
こうしたことを考えた香川県農試が小麦の品種改良に力を入れ、2000年に見栄えもよく雨に強い「さぬきの夢2000」なる品種を開発し、その普及に努めた。これをどう定着させ、拡大していくか、これを前々回紹介した東京農大オホーツクキャンパスのかつての私の教え子のHRさんの卒業論文で問題としたのだが、いずれにせよ香川の小麦が「さぬきの夢2000」で復活してきたことはうれしいことである。
このような努力は北海道の農業技術者、生産者も続けてきた。いうまでもなく北海道は畑作地帯・寒冷地帯、ここに適する麦作の振興に力を入れてきた。そして、小麦では作付面積が全国の約6割、収穫量は7割近くを占めた。
北海道の道路は真っ直ぐである。山があろうとも谷があろうとも、ともかく真っ直ぐ、「どこまで行っても長い道」が続く。だから、ものすごい下り道が延々と続き、今度はすさまじい上りになり、それが波のように繰り返される道路があったりもする。私と家内はそうした道路を「ジェットコースター道路」と呼んでいた。
網走の東京農大オホーツクキャンパスから大学付属寒冷地農場に行く途中にもこのジェットコースター道路がある。
畑のど真ん中を突っ切って走るこの道路のわきに「手打ちうどん」の看板が出ていた。同僚に聞くと農家が自宅を改造してやっているレストランだという。広い広い麦畑の緑のなかで農家手作りのうどんを食べる、これはいいと思い、行ってみた。手作りの食堂、そして手作りのうどん、気分よく食べた。ご主人に聞いてみた、この麦は北海道の何という品種かと。そしたら何と、道産小麦ではおいしいうどんが打てない、それで讃岐うどん用の小麦を取り寄せて打っているという。ということはオーストラリア産の小麦ということになる。当時の讃岐うどん用小麦はほとんどASW小麦だったからである。ちょっとがっかりしてしまった。この麦畑のなかで何でオーストラリア産小麦を食べなければならないのか。競争相手の外国産小麦をなぜ農家が消費拡大してやるのだろうか。
たとえば北海道にはうどんなどの日本めん用品種の「ホクシン」がある。しかもそれは国産小麦の半分を占めるにいたっている。なぜこれを使わないのだろうか。その品質がASWに比べて粉の色や製粉性で劣るからなのだろうが、打ち方を工夫するなどおいしいうどんにする工夫をしながらそれを使い、よりよい道産の品種ができあがるのを待つことができないのだろうか。そんなことを当時考えたものだった。
パンの作り方の講習会をやるから来ないかと家内が友人に誘われ、近くの町の調理研修施設に出かけた。たくさんのご婦人が集まっており、いっしょに指導を受けながらパンをつくった。さすが北海道、小麦粉はふんだんにあり、家内もたくさんのパンをつくった。帰り際に家内が聞いた、この小麦粉は網走産なのかと。そしたら何と、アメリカ産だという。家内はがっかりして帰ってきた。食べきれないほどのたくさんのパン、ましてやその話を聞いた私は手もつけない、処理に困ったようだ。
なぜ網走でアメリカ産小麦によるパン作り講習会なのだろう。パンに適する小麦がまったくないのならやむを得ないが、85年に北海道農試が開発したハルユタカがある。グルテン含有量が高くパンにしやすい「強力小麦粉」として開発され、おいしいと評判だった。岐阜県に調査に行ったとき、そこの有名なパン屋さんがすごくほめていた。問題は収穫量が不安定なこと、これを何とか解決してもらいたいと期待していた。なぜこのハルユタカを、しかも道民が、使わないのだろうか。
私は家内のつくったパンを一口も食べなかった。家内には、そして小麦粉(これには罪がない)には申し訳ないとは思ったが。
重要な記事
最新の記事
-
コスト考慮した価格形成 関係者に努力義務 不十分なら勧告・公表 農水省2025年2月10日
-
農林中金 純損失1兆4000億円 第3四半期決算2025年2月10日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】山形・農事組合法人魁 助成金頼り後継不安 ソバ転作で水田守る2025年2月10日
-
日本カーリング選手権 男女日本代表チームに副賞の米など贈呈 JA開催2025年2月10日
-
「佐賀牛×Art Beef Gallery 佐賀牛ローススライス「ベルサイユのさが」限定パッケージ」販売 JAタウン2025年2月10日
-
フェアな値段を考える「値段のないスーパーマーケット」開店 農水省2025年2月10日
-
南海トラフ地震に備え炊き出し訓練「あったかごはん食堂」開催 生活クラブ愛知2025年2月10日
-
完熟きんかん「たまたま」&日向夏「宮崎ひなたフルーツフェア2025」開催中2025年2月10日
-
JAと連携 沖縄黒糖と北海道小麦の協同「産直小麦の黒かりんとう」発売 パルシステム2025年2月10日
-
牛乳の魅力発信「牛乳って、いいな。動画コンテスト」を初開催 関東生乳販売農業協同組合連合会2025年2月10日
-
福島県産食材を活用 YouTubeチャンネル「ふくしま給食ものがたり」公開2025年2月10日
-
季節限定「とびきり大粒ヨーグルト 白桃&アロエ」新発売 北海道乳業2025年2月10日
-
福島のトップブランド米「福、笑い」食味コンテスト 受賞者決定2025年2月10日
-
国産の桃の果汁そのまま「国産白桃ストレートジュース」デビュー 生活クラブ2025年2月10日
-
地産全消「野菜生活100 本日の逸品 愛媛せとか&伊予柑ミックス」新発売 カゴメ2025年2月10日
-
「女性のための就農お悩み解決セミナー」24日に開催 埼玉県2025年2月10日
-
「ACAP消費者志向活動表彰」移動スーパー「とくし丸」が消費者志向活動章を受賞2025年2月10日
-
寺田心とインフルエンサーも登場 ミルクランド北海道 新CM第2弾公開 ホクレン2025年2月10日
-
山口県内初のコメリパワー「長門店」23日に新規開店2025年2月10日
-
【人事異動】JA三井リース(4月1日付)2025年2月10日