(298)アタッシェ・レポートに見る日本【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年9月9日
各国の大使館にはさまざまな分野を担当する専門職員(アタッシェ)がいます。アタッシェの多くはローカル・スタッフで当該国の情報、例えば農業や食品産業に詳しく、時折、興味深く、わかりやすいレポートを作成してくれます。
今回は9月1日に米国農務省から公表された「日本:日本農業と農産物輸入の長期的トレンド」(注1)とでも訳すレポートを紹介します。図表込みで5頁、要点をコンパクトにまとめた内容です。
3部構成のレポートの要旨は「農地減少、農業労働力の不足、消費者の食生活の変化、そして日本市場の開放などにより、多くの農産物の輸入が増加した」というものだ。
最初に、1960年以降、半世紀以上にわたる農地、作物別作付面積、農地の利用率などがグラフにより示されている。これらのデータの多くは日本の農水省が公表しており、関係者には馴染み深いが、適度にまとめ、かつ英語で書かれていると視点に新鮮さが加わる。
レポートの中で興味深い点は、次の農産物貿易を解説した部分である。小見出しとして、「農産物貿易の影響:加工食品輸入の増加」という部分である。書かれている英語の雰囲気を理解してもらうために、一部引用してみたい。
「While import rates may be rising for all those products, that increase belies two very different realities: For products such as fruits and vegetables, import rates are rising despite declines in per capita consumption as domestic production declines even more quickly. For products such as beef, pork, and dairy rising per capita consumption drives increasing demand for imports.」(同レポート3頁、下線は筆者が追加)
簡単に訳すと以下のようになる。
「これらの農産物全ての輸入割合は増加しているかもしれないが、その増加率は2つの異なる現実を示している。果実や野菜などは、国内生産が急速に減少しているため一人当たり消費量が減少しているにもかかわらず、輸入割合が増加している。牛肉、豚肉、乳製品などは、1人当たりの消費量の増加により、輸入需要が増加している。」
なお、ここでの輸入割合とは金額ベースではなく、数量ベースでの各品目の国内総供給量に対する輸入品の割合である。また、「all those products」の対象は上では「これらの農産物全て」と訳したが、実際のレポート中には「これら」の例が示されているだけでなく、「all products」でもないことに注意が必要だ。
レポートの最後は、農家数の減少と農業生産の集中について述べられている。北海道、九州、そして全国平均の3つを比較したグラフが示されている。どう解釈するか、グラフを元に話し合ってみるのも良い。
**
米国農務省のアタッシェ・レポートは有難いことに通常は全てが公開され、手元の携帯でも確認できる。筆者が旧JAビルで仕事をしていた1980年代中盤は月に1度の需給見通しですら、現物冊子が航空便で手元に届くのは一週間後、さらに組織内の階層順に確認印が押された後であった。
それでは日々の相場判断には全く役に立たないため、仕事上は早朝のFAX(現在では見たことのない大学生が沢山いる)の断片情報や業界コメント、現地駐在員がまとめた発表要旨などを適宜早い順に入手して対応した。各商社からもテレックス(こちらも死後?)経由で毎日情報が入ったが、担当者の関心やバックグラウンドによりどうしても濃淡が生じる。そこで知りたい内容をコンパクトにまとめた情報をいかに早く提供できるかが「売手」の腕の見せ所であり、「買手」には役立つ情報だった。
だが、「売手」には当然、セールス・トークが含まれる。そうなると、やはり頼みの綱は同じ組織の駐在員であり、真夜中に何度も国際電話をして真偽を確認したものだ。
時は流れ、今や世界中どこでもネット環境さえあればこうした情報が公開と同時に入手できる。仕事の方法だけでなく、情報の入手方法も大きく変化した。あとはそれをどう理解し活用するか、である。
**
今回紹介したようなレポートなら、若干の説明と加筆・修正をした上で受験英語の問題として使用してみたら面白い...などと思うのは、この仕事も長くなったせいか...。
(注1)USDA-FAS, "Long-Term Trends in Japanese Agriculture and Agricultural Imports", September 01, 2022.
アドレスは、https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=Long%20Term%20Trends%20in%20Japanese%20Agriculture%20and%20Agricultural%20Imports_Tokyo_Japan_JA2022-0065.pdf (2022年9月6日確認)
重要な記事
最新の記事
-
【JA部門】優秀賞 やりがいを感じる仕事で組合員対応力の強化 JAうつのみや TAC・出向く活動パワーアップ大会20242024年11月26日
-
令和6年「農作業安全ポスターデザインコンテスト」受賞作品を決定 農水省2024年11月26日
-
農水省「あふ食堂」など5省庁食堂で「ノウフク」特別メニュー提供2024年11月26日
-
鳥インフル 米オクラホマ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月26日
-
マークアップ上限kg292円に張り付いたSBS入札【熊野孝文・米マーケット情報】2024年11月26日
-
「りんご搾り粕」から段ボール「りんごジュース」出荷へ実用化 JAアオレン2024年11月26日
-
JAかみましきで第22回JA祭を開催 過去最多の来場2024年11月26日
-
鹿児島堀口製茶 DX通信に追加出資 地域農業の高度化と地域創生へ2024年11月26日
-
海の環境保全と国内水産業を応援 サンシャイン水族館で生産者と交流 パルシステム2024年11月26日
-
アグリビジネス創出フェア 農水省ブースに「レポサク」展示 エゾウィン2024年11月26日
-
2大会連続日本一の技術 坂元農場の高品質な牛肉づくりを紹介『畜産王国みやざき』2024年11月26日
-
「プレ節」発売10周年記念 無料配布イベント実施 マルト2024年11月26日
-
不健康な食生活がもたらす「隠れたコスト」年間8兆ドル FAO世界食料農業白書2024年11月26日
-
農業資材などお得に 2025年「先取り福袋」12月1日から予約開始 コメリ2024年11月26日
-
宅配システムトドックに「通販型乳がん検査キット」掲載 コープさっぽろ2024年11月26日
-
食品宅配サービスOisix「鈴鹿山麓育ち みんなにやさしいA2ヨーグルト」新発売2024年11月26日
-
需要好調で売上堅調 外食産業市場動向調査10月度 日本フードサービス協会2024年11月26日
-
気候変動緩和策 土地利用改変が大きい地域ほど生物多様性の保全効果は低い結果に2024年11月26日
-
雨風太陽 高橋代表が「新しい地方経済・生活環境創生会議」有識者構成員に就任2024年11月26日
-
サカタのタネ スペイン子会社がアルメリアで新本社の起工式を実施2024年11月26日