(300)インドとヴェトナム:コメをめぐるそれぞれの思惑【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年9月23日
世界的に注目される大きなニュースがあるとどうしてもそちらに目が行きます。でも、その陰で、いくつもの大事な動きがありますね。
米国農務省によれば2022/23年度の世界のコメの貿易量は年間5,373万トンと見込まれている。その中で37%、約4割を占める最大のコメ輸出国がインドである。日本ではコメ輸出というとタイやヴェトナムが良く知られているが、タイは800万トン、ヴェトナムは680万トンで、両国を合わせた数字よりもインドの輸出量が圧倒的に多い。
そのインドが2022年9月9日、ついにコメ輸出にも制限を実施した。一言でコメ輸出と言っても、インドの場合に対象となるコメはいくつか存在する。このコラムでは通常、全体のつかみでの話を書くことが多いが、今回は少し細かい内容に入ってみたい。
インドから輸出されるコメのタイプを英語のままで示せば、broken rice、paddy rice、brown rice、white rice、parboiled riceということになる。
ここでbroken riceとは日本語の破砕米と考えれば良いであろう。次の、paddy riceとは何か。英語の辞書ではpaddyそのものに水田、稲、米、籾などと列記されているし、水田のことをrice paddyと表現するためやや混乱するが、要は脱穀前の籾(もみ)のことである。単語の順番を入れ替え、rice paddy(水田)とpaddy rice(籾)にしただけで意味が異なるので要注意だ。次のbrown riceは日本語では玄米と訳せる。そうなるとwhite riceは文字通り精米後の白米といったところか。
これらに加え、日本では余り知られていないが東南アジアでは昔から親しまれているのがparboiled riceである。パーボイルド米という名称で最近ではレシピなどもよく紹介されている。このparboilという単語は少し茹でるという意味である。詳しい方法はネットなどでご確認頂きたいが、水に漬け、籾の状態で蒸してから乾燥させた、いわば半加工米のようなものだ。下茹でがなされているため、調理が容易で食後の糖質の吸収が穏やかになるとも言われている。このあたりは栄養学の観点からも興味深いところだ。
さて、2021年のインドのコメ輸出を2,000万トンとした場合、内訳数字の詳細は不明だが、一番多いのが白米(非バスマティ米)で約3分の1強、次がパーボイルド米で、約500万トン、そして高級米として知られているバスマティ米がやはり500万トン弱、残り約300万トンの大半が破砕米でわずかに籾のままの輸出があるようだ。世界のコメ貿易をめぐる議論はよく見るが、コメを一律にコメとして扱っているため中身がよく見えない。総数ではプラスマイナスが合ってもリアリティに欠けるのはこうしたトレードの中身が曖昧なためである。
今回の措置をまとめてみれば、インド政府としては、外貨が稼げ、評判の高いバスマティ米と、これも根強い人気があるパーボイルド米の輸出市場は手を付けずそのまま確保しし、通常の白米、籾、玄米には20%の輸出税をかけ、昨年急増した破砕米については輸出を禁止したということになる。背景はもちろん国内供給を重視したためである。
興味深い点としてバスマティ米とパーボイルド米はどこが輸入しているかだが、バスマティ米は中東、ヨーロッパ、北米などを中心に輸出されている。いわば所得層の高い国向けの商品である。これに対し、パーボイルド米はバングラデシュ、アフリカ、そしてサウジ・アラビアなどが主たる顧客だ。サウジ・アラビアの国内需要をもう少し詳細に調べれば、同国のコメ需要のクラス分けが見えてくるであろう。
コメをめぐる貿易はダイナミックに動いている。例えば、コメ輸出国としてはインドの競争相手のヴェトナムが安価なインド産の破砕米を中国とともに輸入し、家畜飼料として活用している。ヴェトナムは、年間2,740万トンのコメを生産するが、国内需要は2,150万トンのため、680万トンを輸出する見込みだ。その一方で、70万トンほどの安価なコメを輸入し、これを飼料原料にしている。両国の動きは早い。
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毎回のコラムもようやく300回にたどり着きました。いつもご愛読ありがとうございます。
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