「もんぺ」・北海道・山形【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第216回2022年9月29日
「もんぺ」、名前は知っている、古い写真や映画などで見たことはある、だけど穿いたことはもちろん実物を見たこともないという方がほとんどなのではなかろうか。
そうである、もんぺとは「女性が下半身を纏うための衣服で、袴の形をしていて足首の所でくくるようにした作業着」のことで、第二次大戦戦中から戦後にかけて全国の女性が穿いた(いや、穿かざるを得なくさせられた)ものである。
私の祖母や母はいつも穿いていたし、まわりの女性すべてが冬の普段着、夏の外出着、仕事着として、また歩きやすさ、寒さ対策からもんぺを穿き、遠方への外出のときももんぺを穿いたものだった。
でも、戦後しばらくしたら都会ではまったく見られなくなり、やがて私の故郷の山形でも徐々に見られなくなり、さらに1960年代を過ぎると昔から伝わってきた作業着とともにまったく見られなくなった。
それから半世紀近くも過ぎた2004年の5月、しばらくぶりでその「もんぺ」の名前に接した、それも北海道、さらにそれもオホーツク海に面する北東部沿岸のサロマ湖近くの湧別町(カーリングで有名になった北見市常呂の隣り町)でだった。
北海道北東部・オホーツク海沿岸の春は5月の連休ころからの水芭蕉の開花から始まり、さまざまな花が一斉に咲くのであるが、その沿岸に面している湧別町にある「かみゆうべつチューリップ公園」では約100万本のチューリップの花が今満開、公園中央にある風車展望台と合わせて見事な景観を誇っているとの記事が北海道新聞に載っていた。一度見てみたい、当時居住していた網走市からすると直線距離で100キロ弱、道路混雑も考えられない、行って見るかということになった(といっても私は免許なし、家内の車・運転でということになるが)。
それはそれは見事だった。
という話しを、当時の私(網走にある東京農大オホーツクキャンパスに勤務していた)の教え子の一人の富山出身の大学院生にしたら、「ふん」と鼻で笑い、「富山とは比べものになりませんよ」とのたった一言だったが、まあ、それはそれとしておいておこう。
さて、その見事なチューリップ公園の隣りに、何とも説明のしにくい奇妙な(怪獣がのたうちまわっているような)屋根をした建物があった。チューリップ畑にも、周辺の景観にもどうしてもなじまない。建築家の悪趣味としか言いようがなく(私に美的感覚がないからわからないのかもしれないのだが)、とてもその中に入る気はしない。しかし、「ふるさと館」という郷土史の博物館だというし、せっかくここまで来たのだからと、ともかく入ってみた。
外見と違って展示の内容や配置、説明はきわめていい。学芸員などのセンスがいいためかもしれない。
そのなかに、北海道ではどこでもそうだが、この地域での開拓・入植や屯田兵の歴史などの説明があった。この地域には山形と千葉から多くの人が入植してきたということだったが、私の故郷山形からの入植者が多いとのことに驚き、さらに読み進めていったところ、そこにこんなことが書いてあった。
山形から入植したご婦人たちはみんな「もんぺ」をはいて農作業をしていた。それを見た千葉の入植者たちが何とかっこうが悪いことと笑った。ところが翌年にはその千葉のご婦人たちも山形のご婦人に学んで全員もんぺをはくようになった。仕事はしやすいし、開拓原野に大発生する蚊や虫にさされないし、しかも温かいからである。
なるほどそれはその通りだろうと納得したのだが、それ以外にももんぺは歩きやすい、走りやすい、さらに小用がしやすいこともあったのだと私は思う。
ただしこのうちの最後の件に関しては、この上湧別の近くの紋別生まれの松田藤四郎さん(農業経済学者で東京農大教授、学長・理事長を務められ、先年故人となられた)と話したときに思いついたことである。彼の両親は山形の上山市(私の出身地山形市の隣町)出身だということからもんぺの話になった。そして彼は言う、お母さんが立ったままほんのちょっと腰をかがめて、人に見られないように、着物を汚さないように、上手におしっこをしたものだったと。
私の母もそうだった、田畑のど真ん中でも立ち小便をしたものだった、あれはもんぺのおかげだった、こう言って二人で大笑いした。
そうなのである、もんぺは本当に便利なものだった。これも千葉出身の女性がすぐもんぺを採り入れた理由になったのではなかろうか。
このことでまず感じたのは、北海道に入植した人たちの受容力と先進性である。いいものは偏見をもたずにすぐに取り入れる(そうしなければ厳しい環境のもとで生きていけなかったということもあろうが)。当然のことながらそれは新しいものを先駆けて創り出すことにつながるのだが。それはそれとして、この話しの続きをもう少しさせていただくが、それは次回にさせてもらおう。
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