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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】正念場続く農業・酪農情勢~支え合う仕組みが足りない2022年9月29日

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一昨年に比べて肥料2倍、飼料2倍、燃料3割高、と言われるコスト高でも、十分に価格転嫁ができない農畜産物。政策も動き始めたが、酪農については「追い討ち」的な乳雄子牛価格の暴落などで現場の苦境は深刻化している。長年の貿易自由化による農業の苦境と「引き換え」に大企業が利益を増やしてきたのが日本経済。企業などにも考えてもらいたい。

予備費による政策発動

9月9日、政府は、予備費から、搾乳牛1頭に都府県1万円、北海道7200円の緊急支援を決定した。関係者の努力の結果ではあるが、1頭当たり年間乳量を1万キロとして乳価に換算すると、生乳1kg当たり都府県で1円、北海道では72銭で、配合飼料が30円/kg上昇している現状には遠く及ばない。

特に、11月からの飲用乳の取引乳価が10円/kg上がっても、加工向けが8割占めるため、2円しか上がらない北海道の不満も大きい。飼料費の高騰に応じた支給なので、自給飼料が相対的に多い北海道への支給が低くなったとのことであるが。

政策的には、次は、補正予算でどれだけのことが上乗せできるか、が待たれる。

農村現場から

状況をさらに悪化させているのが、副産物収入の激減である。乳雄牛の肥育も大規模に展開していた畜産大手の倒産(神明畜産、負債総額575億円)により乳雄子牛の買い付けがごっそり減ったこと加え、そもそも餌代が2倍になり、肥育経営が子牛購入を控えている。

酪農現場からは「子牛販売価格暴落で経営者より家族、特に哺乳をやっている奥様方の精神的なダメージが大きいと聞きます。大切に育てた子牛が110円とか薬殺とか、哺乳する奥様方には耐えられないようです。酪農家族に絶望感が拡がっています。」との連絡があった。

最近の現場からの声を次のようにSNSで流した。

・いよいよ吐息も出ずの状態です。危ない!

・ここ1年間くらい絶望感しかありません。家族で食べていく事はこれからも何とかできるだろうけど、今の酪農の状況ではメンタルが持ちません。後1、2年状況を見ながら今後の進退を決めたいと思います。その前に潰れちゃうかもしれないけど。

・例えば牛乳収益が100万円、濃厚飼料代が120万円となり、赤字が20万円、タダ働きした上に赤字の補填をしなければならない現状だそうです。その赤字分は子牛の販売だったりしていたのですが子牛も売れなくなっているのです。又政府による大型経営でロボット導入で数千万円の資金を・・・

・牛舎で毎日毎日子牛の世話をしたり乳搾りしたり、餌をやったり、子育てや家事に追われる女性たちは、じっと耐えるしかありません。哺乳して子牛の頭を撫でてやり、うまく糞を出せない子牛は肛門周りをマッサージしてやったり、生まれて間もなくの飲みの悪い子牛に1時間も2時間も付き合って初乳を飲ませています。牧場での女性陣の頑張りは素晴らしいものです。しかし、それも限界があります。このままの個体販売価格や売れない状況が続けば精神的に持ちません。牧場を支えている女性が希望を持って安心して働ける日を待ち望みます。

・生産抑制で前年比101%を越えた分は集荷しないという話までされているようです。搾るしかないのに、これではどうしょうもありません。回ってきている普及員さんも、生産抑制を指導するように上からきつく言われているとのことでした。年末は処理出来ない可能性もあると聞かされていて、処理不能乳が出れば更にきつい生産調整になるとも。

・私は生産調整しません。罰金課すなら受けましょう。明年は系統外の二股出荷を宣言します。経営は誰も守ってはくれません。脱脂粉乳が極端に過剰なだけで飲用もことが変われば綱渡り状態に変わりはありません。世の中をどう見ても"牛を殺せ搾るな"は誤り。腰に手をあてていいおじさんが牛乳を飲んだり無料配布のレベルではありません。牛乳が飲めなくなる日はそう遠くありません。

・心配なのは第二の神明畜産が出ないかです。ある日突然連鎖が起きないか心配です。皆さん耐えてますよ。

大きな反響

生産サイド、消費者サイドからも様々な反響があった。

・まさに昨日、酪農家かぁちゃん達でこの現状の辛さを話し合いました。もう農家の努力では解決できない域です。暴落具合は、乳雄よりF1雄、初任牛が酷いです。そして毎週下がり続ける...

・書かれている内容は間違いなく「酪農現場から」だと思います。今は深刻で本当にピンチなんだろうなと思いながら読ませて頂きました。酪農を取り巻く諸問題、実は今に始まったことでなく幾度となく繰り返しているのではないかと...わが家が酪農を廃業したのは平成5年でした。その前に「〇〇酪農組合」が解散して消滅しました。さらに遡ることに酪農先進地の北海道などで離農が相次いでいました。それも多額の借金を抱えて、半ば夜逃げのような廃墟が報道されていました。まぁ実際には牛飼いであれ、稲作農家であれ、夜逃げはできません。きっちり精算しなければなりません。酪農組合の解散もわが家の廃業も酪農業の先行き不安がありました。それぞれの家には息子がいたのだから、酪農が儲かっていたのなら、後継者になっていた可能性がありましたが。そうはならずに、徐々に廃業し、今は1軒もありません。営みができていたのは「牛の背に揺られていた」からです。個人としては借金が莫大で、乳業メーカーへの原乳販売代金でそれを返し続ける。止める時も苦渋の選択でした。両親は退職金に相当するものを手にすることはできませんでした。生き残った酪農家、新規に近代的な農法を学び就農した方も今の事態は厳しいと思います。酪農を続けるためには今すぐ乳業メーカーと国からの支援が必要です。

・国は何とかしようと思わないのでしょうか? 食糧は大事な国防、軍備だけが国防では無いのです! ミサイルよりも先に考えなければならないこと。スーパーに食べ物が沢山あるから安心では無いのです、東日本大震災直後のスーパーの棚を思い出して頂きたい。かなり切実な問題だと思っています。

・国葬よりも、かかる経費で農業・酪農・林業・漁業の所得補償に回し、生産者が生活出来る価格で消費者が支援できる社会システムを作りましょう!!

・市民の出来る手助けはありますか? 野菜などは直売りがありますが。酪農農家を助ける為の良策の提案をお願いします。

・財団でクラウドファンディング、もし可能であれば。

食料安保財団からの呼びかけ

長年の畳みかける貿易自由化で農業の苦境が進む一方で、利益を増やしてきたのが日本の製造業の大手企業などでもある。微力ながら財団からも呼びかけた。

「食料安全保障推進財団に一番沢山の拠出をして下さっているのは、今ご自身が一番苦しい酪農家の皆さんです。身につまされる思いです。国や組織が動かないなら、できることなら財団で乳雄子牛の補填などをしたいです。心ある企業の皆さん、支え合う仕組みを創りませんか」(注1)

クラウドファンディングができないかとの提案もある。早急に検討したいが、筆者は一研究者で、そう簡単ではない。苦悩は続くが、何とか希望の光を見出さねばならない。

(注1)https://foodscjapan.org

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