信用金庫の会員への積極的な経営支援行動に学ぼう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年10月4日
信用金庫は銀行よりも「上」の金融機関
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
昨年、信用金庫法制定70周年。信用組合から信用金庫への業態転換が行われ、53年の全国の信用金庫数は561でした。70年の時間を経て、2021年度末の金庫数は254、ほぼ半減したことになります。
ちなみに、21年度の事業実績は、預金は前年度比3兆2768億円(2.1%)増加して158兆8,670億円。貸出金は同3,525億円(0.4%)増加して78兆8292億円。貸出金の伸びは鈍化したものの預貸金ともに過去最高の実績です。
常勤役職員数は10万1,552人、前年度比1,519人の減少です。店舗数(本店、支店、出張所の合計)は、前年度より52店舗減少して7,129店舗。もっとも多かった1998年度末(8,673店舗)に比べると1,544店舗の減少(Δ17.8%)です。ちなみに、店舗数を他業態(同時期)と比較すると、大手銀行等が2,372、地方銀行10,427で、地方銀行に次ぐ店舗数です。ゆうちょ銀行23,815店舗、JAは6,445店舗(22年3月末)です。ただ、20年間のJA店舗減少率はΔ48.1%とほぼ半数になっていますが、信用金庫は同期間でΔ16%に留まっています。支店の再編は、あまり行われていないといえるでしょう。
まったくの余談ですが、信用金庫という名称を使うことになった経緯で、伝説的な話があります。戦後、全国の信用組合を地域金融機関に業態転換する際に、どんな名称が望ましいか、当時の大蔵省との折衝での話です。
オリンピックのメダルは金、銀、銅だが、すでに「銀」は、銀行が使っているから、この際。その上の「金」を使ったらどうか、「銀よりも上だ」という話から、直ちに「信用金庫」の名称で決まった、という伝説的な話です。
私も40年近く前、この話を聞いたとき、思わず吹き出してしまいました。「銀行よりも上の信用金庫」というこの話、いまでも信用金庫のなかには、密かに「誇り」に感じ、胸を張る職員がいます。
信用金庫の「出番」だが、カネを貸すのではなく、事業を育てよ
ところで、2020年に発生したコロナ危機は、信用金庫の事業にも大きな影響がありました。しかし、むしろ存在価値をアピールする機会ともなったように思います。政府が中小零細企業対策で実行した実質無利子・無担保融資(いわゆる"ゼロゼロ融資"、金利分は都道府県が負担)では、信用金庫の強みを証明する結果となったからです。
このゼロゼロ融資は、約1年間に民間金融機関で約100万件超の融資が実行されましたが、信用金庫は件数ベースで最大の貢献をしました。小口融資が多く、手間のかかる業務は信用金庫の得意技。日頃から地域に密着し、相互信頼を基本に、中小零細企業経営者との強い関係性が活かされたともいえます。
戦後の長い経済発展の下で、信用金庫の銀行との同質化などの批判が聞かれるなかで、コロナ危機は、あらためて銀行との差別化、非営利、相互扶助といった協同組織の金融機関としての理念の再確認、その特性を印象づけることになったといえます。
さらに、全国各地の信用金庫が、会員企業に対して積極的な経営支援を行っている事例が紹介されています。本来業務である資金繰り支援や補助金・助成金の活用などのサポートに加え、販路開拓支援、事業のマッチングサポート、人材確保・育成支援、新規事業分野への進出支援など、これまで以上に積極的な支援が報告されています。
実は、信用金庫の事業・経営支援、販路開拓やマッチングサポートなどは、これまでの長い時間、実績を積み重ねてきているのです。代表的なものが「よい仕事おこしフェア」でしょう。東日本大震災後の東北地方の中小企業や信用金庫を応援しようというアイデアから生まれたイベント。東北の名産品を首都圏で販売し、人と情報の交流を通じて、東北と首都圏の企業をつなぎ、ビジネスマッチングの進展をと、大震災の翌年12年にスタート。私も仕事先の信用金庫から紹介され、会場の東京ドームに出かけました。東北、関東の60を越える信用金庫が競争した一大イベントでした。
コロナ禍の前年2019年10月に開催された同フェアは、過去最多の全国229信用金庫が協賛、2日間で約5万人の来場者を集めました。このフェアの成長の実績とともに、「よい仕事おこしネットワーク」という全国の信用金庫が連携したビジネスマッチングサイトも活動実績をあげています。
私の知る信用金庫の経営者は、「私たちの存在価値は、会員企業の事業成長や経営発展である」と力説します。「金貸しが目的ではない、事業の成長なのだ」と。これは建前ではないのです。会員企業の成長が信用金庫の成長であるとの強い信念。だから、現在でも「信用金庫は、銀行よりも上の金庫」なのかもしれません。
JAにも同じことがいえます。「組合員の農業経営の粗収入が増え、所得が増えなければ、JAの経済事業も販売事業も増加しません。営農指導事業も持ち出しでしかない。本気で、組合員の農業経営の収入を増やす努力をしないのなら、JAの存在価値はない」と。
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