戦時日本女性の制服となった「もんぺ」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第217回2022年10月13日
北海道湧別町の鄕土博物館の展示でもう一つ勉強になったことは、その昔「もんぺ」は全国共通の衣服ではなかったということである。
山形の農村出身の私は小さい頃からもんぺ姿を見ていたし、戦時中には日本中すべての女性がもんぺをはいていたので、昔から全国各地にあったものだと考えていた。ところがそうでなかった。山形、秋田、新潟の一部の農村地域の衣服でしかなかった、東北発の文化だったのである。驚いた(注)。
そもそもは最上川や雄物川などの河川に発生するツツガムシが入り込むのを防ぐために足元の方をズボンのようにつぼめたもんぺをはくようになったらしい。
使ってみると、他の虫も防ぎ、寒さを防ぐこともでき、着物を着てるのに活動しやすく、しかも比較的簡単につくることができる。
こうしたことから女性のふだんの野良着となり、さらには非農家も含むこの地域の女性が何かの折りにはくようになり、普通に見られるようになったのだろう。
このもんぺに戦時下の政府や軍の関係者が目をつけた。
当時はまだ着物姿のご婦人が多かった。しかしこれでは銃後の守りに耐えられない。空襲などがきても早く走ることもできない。そこで1938年「服装改善」委員会を設置して、官民合作による服装改善案を作成、戦時下の国民大衆に指針を示すことになった」
その結果、都会の婦人の防空のためにも、農村婦人の作業服としても東北地方のモンペ以外に適当なものがない、これまでの着物とも相性がぴったりだとして、推奨することになった。
かくして着物にもんぺ、割烹前掛けにたすきをかけて防空演習に出たり、出征兵士を送ったりするときの婦人の制服となった。さらに小学校から旧制女学校の子どもたちもやがて下半身はこのもんぺで覆われることになった。山形の一農村地域のもんぺがまさに全国を制覇したのである。
こうしてもんぺ姿があらゆるところで見られるようになった頃、つまり太平洋戦争が激しくなった頃から、人々の暮らしはあらゆる面で大きく変化することとなったのだが。
戦後このもんぺの着用の強制はなくなった。しかし、衣服不足、暖房燃料不足のなかで、都市農村問わず、かなりの期間もんぺが老人から子どもまでの女性に着用された。戦後のニュース映画や戦後を描くテレビドラマに闇市を歩くもんぺ姿の女性の姿が見られるが、まさにあの通りだッた。もんぺは戦中戦後の全国の女性のファッションだった。
そしてそのもんぺはそもそも山形の片田舎のファッションだったのである。
ところで、さきほどもんぺはそもそもツツガムシ(恙虫)対策のための衣服だったと述べたが、若い方のなかにはツツガムシとは何かご存知ない方もおられると思うのでちょっと説明させていただきたい。
ツツガムシとは、最上川や雄物川などの河川に発生し、ツツガムシ病リケッチアを保菌していて、これに吸着されると人間の命にもかかわるツツガムシ病に感染させるダニの一種である。
「恙無い=つつがない」という言葉があるが、これはツツガムシにやられるなどの「病気・災難などがなく平穏無事に日を送る」ということから来ているもの、それくらい恙虫は恐れられたのである、
聖徳太子が遣隋使の小野妹子に「日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙なきや」と書いた国書を託したという話を歴史の授業で習われた方もあろうが、このように病気などの災難を意味する言葉として「恙」が使われるほど(最近はあまり使われなくなっているようだが)の病気だったのである。
最近はあまり聞かなくなっているが、なぜかツツガムシは利根川周辺でもその発生が見られるようになって、今は日本の大半の地域に発生する感染症として位置づけられているとのことである。
これからもさらに気をつけて、つつがなくお過ごし願いたい。
(注)wikipediaで調べてみたら、中部地方などの寒冷地でも防寒着を兼ねて幅広く使われていたとのことだある。どうしてなのか、私にはわからない、興味深いのだが、調べる身体的余裕がないのが残念である。
重要な記事
最新の記事
-
コスト考慮した価格形成 関係者に努力義務 不十分なら勧告・公表 農水省2025年2月10日
-
農林中金 純損失1兆4000億円 第3四半期決算2025年2月10日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】山形・農事組合法人魁 助成金頼り後継不安 ソバ転作で水田守る2025年2月10日
-
日本カーリング選手権 男女日本代表チームに副賞の米など贈呈 JA開催2025年2月10日
-
「佐賀牛×Art Beef Gallery 佐賀牛ローススライス「ベルサイユのさが」限定パッケージ」販売 JAタウン2025年2月10日
-
フェアな値段を考える「値段のないスーパーマーケット」開店 農水省2025年2月10日
-
南海トラフ地震に備え炊き出し訓練「あったかごはん食堂」開催 生活クラブ愛知2025年2月10日
-
完熟きんかん「たまたま」&日向夏「宮崎ひなたフルーツフェア2025」開催中2025年2月10日
-
JAと連携 沖縄黒糖と北海道小麦の協同「産直小麦の黒かりんとう」発売 パルシステム2025年2月10日
-
牛乳の魅力発信「牛乳って、いいな。動画コンテスト」を初開催 関東生乳販売農業協同組合連合会2025年2月10日
-
福島県産食材を活用 YouTubeチャンネル「ふくしま給食ものがたり」公開2025年2月10日
-
季節限定「とびきり大粒ヨーグルト 白桃&アロエ」新発売 北海道乳業2025年2月10日
-
福島のトップブランド米「福、笑い」食味コンテスト 受賞者決定2025年2月10日
-
国産の桃の果汁そのまま「国産白桃ストレートジュース」デビュー 生活クラブ2025年2月10日
-
地産全消「野菜生活100 本日の逸品 愛媛せとか&伊予柑ミックス」新発売 カゴメ2025年2月10日
-
「女性のための就農お悩み解決セミナー」24日に開催 埼玉県2025年2月10日
-
「ACAP消費者志向活動表彰」移動スーパー「とくし丸」が消費者志向活動章を受賞2025年2月10日
-
寺田心とインフルエンサーも登場 ミルクランド北海道 新CM第2弾公開 ホクレン2025年2月10日
-
山口県内初のコメリパワー「長門店」23日に新規開店2025年2月10日
-
【人事異動】JA三井リース(4月1日付)2025年2月10日