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インド太平洋"自由で開かれた"から"経済枠組み"へ②【近藤康男・TPPから見える風景】2022年10月13日

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前回のコラムで、安倍元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略FOIP」について紹介した。今回は、バイデン政権の「インド太平洋経済枠組みIPEF(以下IPEFとする)」について概観したい。

IPEFは2022年2月に発表され、その後米国主導で5月23日に13ヶ国、24日に1ヶ国が加わり14ヶ国となり、本年9月8~9日の参加国閣僚会合で本格交渉が始まった。

オバマ大統領の「リバランス」政策、それを未完に終わらせたTPP離脱

2011年11月、「TPPに反対する人々の運動」の有志で、当時の民主党・野田首相が"TPP交渉参加表明"をしたハワイAPEC首脳会合の現地に出掛け、各国の市民団体の対抗行動に参加した。その際、現地で"リバランス"という言葉をしばしば耳にした記憶がある。

(アジア太平洋地域に再度軸足を置く)「リバランス政策」は、11年10月、クリントン国務長官が、論文で「イラク・アフガニスタンからアジア太平洋地域に重点を移し、外交・経済・戦略などでの投資を増大する」とし、同年11月に、豪州議会での演説でオバマ大統領が表明している。クリントン氏の論文では6つの主な行動方針の1つとして「広範囲における軍の駐留の実現」が挙げられていた。しかし、12年のオバマ再選、クリントン退任以降少しづつ変容し、「リバランスは外交的、経済的、文化的戦略」とされるようになった(13年6月カーター国防副長官)。アジア地域の国々は中国との関係も様々であり、軍事を含む「リバランス政策」には無理があったのだろうか?

米国は、10年3月に"P4"協定に参加、新たな参加国を加えて8ヶ国によるTPP交渉が米国主導で動き出し、その後日本も加わり12ヶ国となった。しかし、TPP12は16年2月4日に合意署名をしたものの、米国の次期大統領選では民主・共和双方の候補がTPP反対を明確にし、議会での承認がされないままオバマ政権も終焉することとなった。そして、2017年1月にはトランプ大統領によるTPP離脱宣言で、「リバランス」政策も足場を失った形となった。

バイデン政権の"リバランス"としての?「インド太平洋経済枠組みIPEF」

"リバランス"としてのIPEFは、成長センターとしてのアジア重視に加え、強国となった中国の独自の地域関与政策、米中の亀裂の中で提起された。インド・太平洋地域で"陣取り合戦"をしながら主導権を目指す一方、対中"デカップリング"ではなく、少なくとも表向きには中国との公正な競争的秩序形成を目指すものとされている(22年9月26日フェルナンデス国務次官への日経新聞取材)。

22年2月に公表されたIPEFの19ページの文書には、まず世界の人口の50%超、世界のGDPの60%、世界の経済成長の3分の2、世界の海洋面積の65%と陸地の25%を占めるとして、この地域の重要性が強調されている。そして、①自由で開かれたインド太平洋の枠組みの促進、②域内・域外双方での連携の構築、③域内の繁栄の促進、④域内の安全保障の強化、⑤国境を超える21世紀型脅威(温暖化・環境悪化など)への対応力の構築、という5項目の戦略目的が挙げられている。

その上で、戦略完成のためのアクションプラン10項目が続き、この10項目については12ヶ月から24ヶ月で集中的に追及するとしている(本年9月USTR代表は日経新聞取材に「3年以内に成果を」と発言)。

しかし、IPEFの文書は課題提示に留まり、具体性に乏しい感がある。ただ、軍事・安保・対テロ対策などは妙に具体的で、また中国への意識は鮮明だ。文書の冒頭で3ペ-ジに渡って「インド太平洋への約束」を展開する中で、中国という国名が12回も登場している。また日米韓などの同盟、ASEAN重視も強調されている。

そして重点分野として①貿易、②供給網、③クリ-ン経済、④公正な経済、の4つの柱が整理され、本年9月8~9日に参加国の閣僚会合で、4分野ごとに共同声明が発表された。

農業への影響は?今後の議論が注目される

「貿易」分野の共同声明では「開かれ、公正、透明、かつ競争的な市場を確保するために協力」するとされ、農業について、「気候に優しく持続可能な生産慣行」などが謳われ、「食料・農産品の輸出入について不当な禁止又は制限回避」が記されている。

関税撤廃など、議会承認を必要とする協定・条約は考えていない、とされているが、発効した協定は生きている筈だ。20年1月1日発効の日米貿易協定付属書Ⅰ第B節「日本国の関税に係る約束」第1款一般的注釈の5において、米国は「将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する」と規定されていることを忘れる訳にはいかない。牛肉の緊急輸入制限も日米貿易協定により本年3月に見直しがされている。

IPEFの分かり難さ、IPEFをどう捉えたらよいのだろうか?経済連携?安全保障強化?

9月8~9日に開催された14ヶ国閣僚会合の共同声明を読んで感じたのは、CPTPPに代表される経済連携協定において議論された多くの内容、特に米国が主張していたルールや基準を思い出すような既視感だった。

本年3月15日の米上院での公聴会でも、質問者・答弁側もCPTPP,USMCAに言及し、IPEFでも米国のスタンダードを目指すとの意見が目立った。ただ政府答弁は、中国を意識し牽制しつつも、国内経済立て直し優先、FTAはその次とされていた。

一方でIPEF参加各国における貿易依存度は対中国依存度が対米国に比べ高く、豪州35%、NZ25%、韓国24%、ASEAN5ヶ国(ベトナム、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、シンガポ-ル)10~20%強、日本も20%強となっている(9月11日付日経・農業新聞)。米国のリーダーシップは果たして機能するのだろうか?

そして重点4分野の共同声明にはもちろん軍事色は一切無いが、IPEFの本文では、5つの戦略目的の一つである「域内の安全保障の強化」に割かれているスペースは2番目に大きく、統合的な抑止力、米軍の展開・配備、同盟の強化、米英豪の軍事協力枠組みAUKUSや北朝鮮への言及、米国沿岸警備隊による訓練・対テロ協力などかなり書き込まれている。妙に違和感を感じさせられた。

参考1:インド太平洋経済枠組みIPEF本文(ホワイトハウス)
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/02/U.S.-Indo-Pacific-Strategy.pdf
参考2:22.09.8-9日IPEF閣僚会合・分野ごとの共同声明(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press3_000922.html

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