地方の疲弊・衰退と地方院【小松泰信・地方の眼力】2022年10月19日
9月23日、武雄温泉・長崎間約66kmを約30分で結ぶ西九州新幹線が開業した。
新幹線開業はまちづくりの出発点
佐賀新聞(9月24日付)の論説は、「新しい鉄路の誕生で、コロナ禍で打撃を受けた地域経済の浮揚に期待がかかる一方、並行在来線となって特急の本数が大幅に減便されて不便になる地域への目配りが欠かせない」と指摘する。
「開業効果をいかに持続させ、沿線以外にも波及させるか。特に長崎線で並行在来線となった江北(旧肥前山口)-諫早の約60キロは、線路や駅舎などを佐賀、長崎両県が所有し、運行を引き続きJRが担うが、約束は23年間で、その後は未定である。『おもてなし』や地域が活気づく手だてなど、各地やJRの不断の努力が必要となる」と、釘を刺す。
そして「ローカル線の存廃を含め鉄路が脚光を浴びる今、地域の足をどう守り、生かしていくのか。新幹線開業を、まちづくりを改めて考える出発点としても捉えたい」と、重要な視角を提示している。
どこがめでたい鉄道開業150年
10月14日、わが国の鉄道が開業して150年を迎えた。
「鉄道が直面する最大の課題は、少子高齢化が進み、人口が減少する中で路線網をどうやって維持するかである」とするのは、神戸新聞(10月14日付)の社説。
「一度途切れた鉄路を取り戻すのは容易ではなく、全国貨物輸送網の観点からも存続に向けて英知を集めることが求められる。JRでは多くのローカル線が赤字に陥っている。黒字路線や不動産など関連事業の収益で赤字路線を支える『内部補助』の仕組みは、新型コロナウイルス禍による業績悪化も影響し、崩壊しつつある」と、鋭い指摘。
「鉄道は日常生活だけでなく、観光や地域活性化にとって必要不可欠な社会基盤である。災害時に果たす役割など、利用者数や採算性だけでは計れない面も忘れてはならない。車よりも環境負荷が低い鉄道の運行を地域が一体となって支え、持続可能な公共交通網を再構築していく必要がある」とし、「地域や暮らしを支えるために、どの路線を『守る』かだけでなく、どのように『活かす』のか。住民や自治体、鉄道会社、国が真摯な議論を重ね、未来を切り開きたい」と訴える。
信濃毎日新聞(10月14日付)の社説は、今年、JR西日本とJR東日本が相次いで不採算路線の収支公表に踏み切ったことに触れ、「気になるのは、公開された収支が細切れで、赤字区間を強調したように見える点だ。切り捨てるような発想が見え隠れする。鉄道事業はそもそも、結んでいるネットワーク全体を視野に考えるべきではないか」と、議論が赤字区間だけの問題に矮小化されることを警戒する。
そして「今後、検討が進めば、自治体や市民に新たな負担が生じる手法が浮上する可能性もある。設備を自治体が保有して運行会社の負担を軽減する『上下分離』などだ。福島県では今月、只見線がこの方式で運行再開した。滋賀県では、全国初の『交通税』導入を目指す動きも進む。地域の将来に鉄道をどう位置付けていくか。長野県でも踏み込んだ議論が求められる」とする。
JR只見線再開の意義と課題
しんぶん赤旗(10月18日付)は、10月1日に約11年ぶりに全線開通したJR只見線について詳しく報じている。
会津若松(福島県)と小出(新潟県)の135.2キロを結ぶ只見線は、2011年7月の新潟・福島豪雨で橋梁が流されるなどの被害を受けた。鉄道ファンの人気は高いものの、一部区間の輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)は、廃止対象の目安とも言われる千人未満を遙かに下回っている。復旧をめぐり沿線自治体では「普通区間の再開はバス運行」との説明会まで開かれたが、「鉄路1本で結んでほしい」が住民の願いだった。復旧を求める署名活動では、1万8000の署名が集まったそうだ。
署名活動に携わった山岸国夫・只見町議は、「本数ではバスの方が便利なのは事実。しかし、過疎化で悩む地域を維持させていくには、観光客に多く来てもらう必要があり、只見線が1本につながってこそ、意味があります」と語っている。
しかし、問題はこれからも続く。「上下分離方式」での再開のため、下の部分(線路など施設の管理維持)の年間費用約3億円を県と地元自治体が負うことになる。例えば、人口約3800人の只見町は年間約2000万円の負担。
そのため、「これから只見線、そして地域を持続させるため、地元自治体の負担を少なくしてもらうよう、引き続き要望を続けているところ」とは、目黒長一郎氏(只見町商工会長)。
「只見線を地域資源として活用し、地方創生路線として成功したモデルケースにしなければいけない」と、抱負を語るのは押部源二郎氏(金山町長)。
記事は、「只見線を存続させ、過疎化が進む奥会津地方を活性化させる。住民の熱意に基づいた地域の努力とともに、『被災ローカル線』を復旧させたJR、そして国の本気度が問われます」と締める。路線存続を目指した存続運動に終わりは見えない。
検討にあたいする「地方院」構想
地方の疲弊、衰退に歯止めをかけるためのヒントを与えているのが、西日本新聞(10月19日付)の「『地方院』が実現すれば」。田代芳樹氏(同紙クロスメディア報道部)が、樋渡啓祐氏(元佐賀県武雄市長)との対話を紹介する中で示された、参議院の「地方院」構想は興味深い。「衆院は外交や防衛などの国策に専念する。地方院は知事や政令市の市長が議員を兼務し、地方行政について審議する。そうやって両院のすみ分けを図る」が、その内容。
樋渡氏は「少子高齢化対策など国が直面する喫緊の課題を解決するには、地方の実情を熟知する首長らの国政関与が不可欠」と言う。
田代氏も「新型コロナ禍では規制や支援を巡り、国と地方のあつれきが何度も表面化した。地方院が実現すれば、地方の声は国政に反映されやすくなるだろう」「例えば沖縄の米軍基地移設など、地方の協力が不可欠な問題では衆院と合同で委員会を設置してはどうか。意見が異なれば、地方院の議決を優先するくらい思い切った改革が必要だ」「中央集権的な国の在り方を見直す機会にもなる」などと記している。
この提案、アイディアの段階ゆえに突っ込みどころはある。しかし、疲弊し、衰退していく地方の実情を熟知した人たちが、しかるべき場所で地方行政を審議し決定することがなければ、地方の活性化も創生も実現しない。
首都圏や大都市育ちの政治屋二世、三世、あるいは落下傘議員に、地方の未来は託せない。
「地方の眼力」なめんなよ
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