【浅野純次・読書の楽しみ】第79回2022年10月22日
◎渡部恒雄ほか『デジタル国家ウクライナはロシアに勝利するか?』(日経BP、2200円)
プーチン大統領は大丈夫でしょうか。それにしても、米国から亡命の手助けを打診されたゼレンスキー大統領が「私に必要なのは逃亡のための乗り物ではなく弾薬だ」と言ったのは至言でした。これで内外の評価は一挙に高まりました。
本書は「米国の戦略」「ウクライナ戦争の技術的特徴」「戦争の経済的帰結」「地政学からみた欧州」などそれぞれの専門家がわかりやすく分析していますが、何より興味深かったのは「デジタル国家ウクライナの解明」です。
デジタル変革省が創設されたのは3年前でしたが、巻頭のフェドロフ副首相兼デジタル変革大臣インタビューはとても明快で、同国が全力を挙げて取り組んできたデジタル戦略が迫力十分に伝わってきます。
戦略の基本は国民へのサービスを全面的かつ「即時、簡易、多様」に提供することにあるのだとか。だから国外避難した国民にも証明書などを発行できるし、戦争で家を破壊された国民が簡単に国から援助を受けられもする。
しかもSNS活用で世界の理解と支持を得つつ、ロシア軍の情報を国民がデジタルで伝えてきて戦争も優位に進めているというのです。ウクライナの強みがここにあります。日本のデジタル庁も少しは学んでほしい...。
◎松下幸子『江戸 食の歳時記』(ちくま学芸文庫、1430円)
江戸の食文化は多彩なうえに奥が深かったようです。当時は和食だけだったので、今の和食との比較でいえば今よりむしろ豊かだったといえるかもしれません。その意味では江戸の食に学ぶことは非常に多いはずです。
従来、私は永山久夫『たべもの江戸史』(河出文庫)を愛読してきました。ともにそれぞれに良い点がありますが、本書の多彩で詳細な内容には感心しました。当時の文献も詳細に引用されています。
それと料理の仕方も詳しく述べるだけでなく、著者は自ら調理してみたうえで注意点やら感想やらを述べていて参考になります。さらに食材、料理、行事、暮らしなどそれぞれ多様に解説されていて楽しめます。
刺身の種類によって醤油の種類も驚くほど多種に及んだこと、ダイコンの種類が想像もつかぬほど多かったこと、『甘藷百珍』という料理書にはサツマイモの料理法が100も盛られていること、そんな話題が50ほど並んでいて、明治以降についても適宜触れられているのも便利です。
◎夏川草介『レッドゾーン』(小学館、1650円)
レッドゾーンとは感染症患者などが収容され特定の医師、看護師しか入れない「立入禁止」区域のこと。コロナ禍に振り回される医の現場を現役の消化器医が描いた医療小説です。
舞台は呼吸器の医師さえいない長野県下の小さな病院。院長の決断でコロナ患者を引き受けたことから、担当となった専門外の医師たちが肉体的精神的に追い詰められ、時に妻に疎まれ、あるいは子に励まされる姿がリアルに描かれます。
主人公の医師たちが個性的な半面、肝心の院長の影が薄いのが惜しまれますが、感染第一波の段階で得体の知れぬコロナウイルスへの医療者や世の中の恐怖感(同様な感染症は必ず再来するはず)が全編を貫いていて興味深く読めました。
ただ県内の病院がどこも受け入れにまったく否定的なのは、長野県にとってはやや微妙かも(フィクションだが事実に近いらしい)。ともあれ、医の問題を考える良い材料を提供してくれます。
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